2019年12月1日
2020年為替相場見通し
大國亨FP研究所
大國 亨 Ph.D.
為替相場および政治状況の概観
2019年度のドル/円相場は10円ほどの極めて狭い範囲での動きとなりました。
低金利政策は日米欧3極で採用され続けており、出口戦略は全く見えてきていない状況です。中銀バブルともいえる株価や不動産価格の上昇に対して警鐘を鳴らすアナリストも数多くおり、斯く言う筆者もその一人ですが、残念ながらそのような気配は具体的には見えず、株価は年末にかけて年初来高値や史上最高値を更新しております。
日本では10月1日に消費税が10%に引き上げられました。消費水準維持のため様々な優遇措置が取り入れられました。まだ引き上げ時期にかかる各種統計が詳らかになってはいませんが、消費税増税前の駆け込み商戦は低調であったようです。
長らく世界各国で採用されてきた低金利政策ですが、最近はその効果も薄れてきており、各国で息切れを心配させる報道が目立ち始めました。
各国の政治状況も極めて混沌としています。
米国ではトランプ大統領ばかりでなく、それに対抗する米国民主党勢力の目下の関心は完全に2021年に行われる大統領選挙に向けられているようです。
EUにおいて、BREXITは2020年1月末まで延長されたようではありますが、離脱の条件の調整が整ったとか、英国民の意見が一つにまとまった、などと言うことはなく、混沌状態が続いているようです。英国の離脱からもうかがえるように、歴史的なヨーロッパ統一の実現とも思われたEUですが、構成各国の思惑の違いも表面化するようになってきたようです。
中東地域も、米国のこの地域に対する意図的な影響力の低下に伴い主導権争いとそれに伴う混乱が続いています。
中東地域でのプレゼンスが拡大しているロシアも、国内では反プーチン勢力がじわじわと勢力を増しているようです。
アジア地域(のみならずアフリカなどでも)におけるプレゼンスを増している中国でも、香港で逃亡犯引き渡し条例の改正をきっかけとする大規模なデモが発生しています。2019年11月の香港区議会選挙で民主派が8割を超える議席を獲得、圧勝しました。直ちに中国共産党政権の存亡に係る事態になるとは思えませんが、行方が注目されます。
日本では元号が平成から令和へと移り変わりました。振り返ってみれば、平成の時代は失われた30年、戦後の昭和期に築き上げた遺産をひたすら食いつぶしてきた時代であったとも言えます。さて令和の時代はどのような時代になるのでしょうか。
本見通しの筆者としては、2020年は米国経済の減速、世界的株安、そしてドル安円高というシナリオを支持するものであります。
世界経済は低金利政策による中銀バブルとも言える状態が続いています。大統領選挙の近いトランプ大統領は何が何でも株価の維持を考えた政策を採用し続けるのかもしれません。直近においてはそのような政策が効果を発揮することはあるかもしれませんが、最近の米国政府の債務の増加などに鑑みるに、そのような政策を採用し続けるには限界があるものと思われます。
予想レンジ
ドル/円
90円〜120円
ユーロ/円
100円〜140円
USD/JPY
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/chart/?code=USDJPY=X&ct=z&t=ay&q=l&l=off&z=m&p=&a=
EUR/JPY
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/chart/?code=EURJPY=X&ct=z&t=ay&q=c&l=off&z=m&p=&a=
地域別ファクター/分析
日本
10月1日に消費税が8%から10%に引き上げられました。「大手百貨店4社の10月の売上高、2割近いマイナスに」(TBS https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20191102-00000011-jnn-bus_all)といったニュースも発表されています。ただし、10月には台風が相次いで上陸するなどの災害もあり、2019年10月14日に発表された令和元年7〜9月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値によれば、個人消費の伸びは0.4%にとどまりました(ちなみに前回増税時の平成26年1〜3月期の個人消費は前期比2.0%増)(SankeiBiz
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/191114/mca1911140859009-n1.htm)。
また、東京商工リサーチから、2019年10月倒産件数(負債1000万円以上)が前年同月比6.8%増の780件と2カ月連続で増加したことが発表されました(東京商工リサーチ https://www.tsr-net.co.jp/news/status/monthly/201910.html)。また、下記グラフからも消費が低迷していることは読み取れます。消費は日本国のGDPの6割を占めています。消費増税は少なくともプラスの影響は与えないはずですので、今後の指標発表が注目されるところです。
総務省統計局
消費水準指数(世帯人員分布調整済、季節調整値)−二人以上の世帯
総務省統計局 (http://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/index.htm#level より作成)
昨年も掲載したGDPデフレーターですが、2019年度も104.43という数値を記録しています。
物価指数などとは算出方法が異なりますので直接の比較はできませんが、一般的にGDPデフレーターが100を超えているということは、名目GDPが実質GDPを超えている、つまりインフレ状態にあることを示しています。確かに物価2%目標には到達していませんが、こちらもアベノミクスの終焉を強く示唆していると思われます。
GDPデフレーターの推移
·
GDPデフレーター
= 名目GDP ÷ 実質GDP ×
100
年 |
1980 |
1981 |
1982 |
1983 |
1984 |
1985 |
1986 |
1987 |
1988 |
1989 |
96.17 |
98.98 |
100.71 |
101.66 |
103.16 |
104.46 |
106.14 |
105.98 |
106.64 |
108.89 |
|
年 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
111.72 |
115.00 |
116.91 |
117.58 |
117.89 |
117.26 |
116.68 |
117.27 |
117.21 |
115.68 |
|
年 |
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
114.08 |
112.82 |
111.17 |
109.37 |
108.17 |
107.05 |
106.10 |
105.33 |
104.30 |
103.66 |
|
年 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
2016 |
2017 |
2018 |
2019 |
101.69 |
99.99 |
99.23 |
98.90 |
100.62 |
102.78 |
103.06 |
102.82 |
102.72 |
103.43 |
単位: 指数
※数値はIMFによる2019年10月時点の推計
※SNA(国民経済計算マニュアル)に基づいたデータ
世界経済のネタ帳 http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDP_D&c1=JP&s=&e=
国内総生産増加率 実質季節調整系列(前期比)
内閣府 (https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe192_2/gdemenuja.html より作成)
2018年9月に新しい日米貿易協定が調印されました。米国はTPPから離脱、各国との2か国協議に基づくFTAの締結を進めてきました。その一環として日本とも新しい貿易協定を結ぶことになったのですが、日本政府の発表では「安倍首相「両国にとってウィンウィン」日米貿易交渉合意」(朝日新聞 2019年9月28日 https://www.asahi.com/articles/ASM9V234HM9VUHBI004.html)とうたっています。日本政府としてはとりあえずTPP交渉の水準を守った、ということなのかもしれませんが、その代わりと言っては何ですが、余剰トウモロコシの購入を約束したと報道されています(「余剰トウモロコシは安倍首相が買ってくれるとさ」https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12511970889.html)。
また、現状では米国は日本を為替操作国と認定しているわけではありませんが、日本に対する監視は継続すると発表しています(Bloomberg 「米為替報告書、中国の為替操作国認定見送り−日本の監視継続」https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-05-28/PS8IL36KLVR901)。
日本の対米貿易黒字が拡大するようであれば、為替相場に対していちゃもんをつけてくることも予想されます。
また、今後の国際的な金融取引に影響を与えると思われる外資規制を強化するための外為法改正案が2019年10月閣議決定されました(日本経済新聞 2019年10月18日 「中国念頭、外資規制強化へ 外為法改正案を閣議決定」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51115240Y9A011C1MM0000/)。日本に対する資本流入を懸念するためばかりではなく、「国家安全保障を目的とした対内投資規制を諸外国並みに厳しくする」(日本経済新聞 2019年10月28日 「外為法改正、安保と投資に揺れる「1%」」 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51414320V21C19A0000000/)とも説明されていますので、必ずしも今後の国際的な資本移動に対する規制の強化につながるわけではないとも思われますが、中国を念頭に置いている、などとかなり特定の国を念頭に置いた規制強化の一面を持っているようです。米国のAmerica
Firstに見られる一国主義に代表されるように、今後の世界は自由貿易からはだんだんと乖離していくのかもしれません。
来年には東京オリンピックが開催されます。インバウンド客数の伸びも期待できますので、国内景気への好影響が期待されるところです。ただ、日本は従来観光立国とは言い難く、現状ではオーバーツーリズムの悪影響が目立つことになっています。オリンピック目当ての観光客の増加により、インフラ整備の立ち遅れなどが一気に目立つことになるかもしれません。
思い切った客単価増加を目的とする施策などの実施が求められるのではないでしょうか。現状為替が円安傾向であることから日本は手頃な観光地として認識されているはずです。つまり、客単価を上げる余地があるということです。また、客単価の上昇はインバウンド客数を適正な数に収める効果も期待できます。
日本のゼロ金利、金融緩和政策は続いてはいますが、いずれかの時点で脱却が必要であり、これ以上深堀りする余地も少ないものと思われます。それがいつの時点であるかは予測困難ではありますが、とりあえず現状の円安相場をもたらしたことは事実だと思われます。また、安倍政権も憲政史上最長の在位日数を更新、同時に飽きからか求心力の低下も感じられるようになりました。現行政策の解除は今までの為替への影響を反対方向へ動かすモメンタムになると思います。現状からの大幅な円安方向への動きは米国のスタンスを鑑みるに非常に考え難く、何か事があれば円高方向へ動くものと思われます。
中国
2019年の中国をめぐる大きなトピックは、間違いなく香港における逃亡犯の引き渡しに係る条例に対する反対デモに端を発する大規模なデモ、そして11月の香港区議会選挙で民主派が8割を超える議席を獲得、圧勝したことでしょう。
香港という特殊な場所(一国二制度や歴史的背景など)で起こった事件であり、現在のところ中国本土への飛び火、他地域との連携などは起こっていないようです。ではありますが、中国をしっかりとグリップしている中国共産党にとっては無視することのできない反対運動です。また、中国共産党にとって、中国共産党の存亡に係る事態である中国の民主化(欧米流の)などはあり得ないことであり、民主化を求めるデモをいつまでも許す、などと言うことはないと思われます。
現時点では民主化デモの中国本土への飛び火は確認されていません。もしそのような事態になれば、一気に大弾圧に発展するものと思われますが、現時点ではその可能性は低い、つまり香港のデモは一地域の問題(香港は法的には中国国内)として鎮圧される可能性が高いように思われます。何しろ習近平主席は「党は法よりも大きい」なんて本音をポロリと漏らしたしたことがあるそうです(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190221-00055550-jbpressz-int&p=1)。ただで済ませる訳はあり得ません。
最近では、2019年11月の香港区議会選挙で民主派が8割を超える議席を獲得、圧勝しました。一旦は下火になったデモも香港警察の発砲など強権の発動、その他の要因により死傷者が出たことで、再びデモに勢いが出てきました。一方の米国議会は2019年11月には香港人権法案を可決、トランプ大統領も法案に署名しました。法案そのものは象徴的な意味しかないと考えられてはいますが、中国共産党政権が民主化運動の激化する、あるいは香港の民主化運動が台湾の独立運動やウイグル族の分離独立運動と連携がとられる、といった場合、中国共産党は大弾圧に乗り出すことが大いに考えられます。そして弾圧に対して諸外国が介入することも大いに考えられます。その場合には中国共産党政権も無傷では済まないと思います。そのような可能性は高くはないものの確かに存在しますので、注意が必要でしょう。
米国との貿易摩擦は現時点でも一進一退が伝えられています。今後の多極化する世界において二大覇権国になると思われる米国と中国ですが、二大覇権国になった場合でもより優位なポジションを得ようと争っている状態のようです。ただし、それはあくまでも、相手に対する優位を確保する、といった程度の争いであり、全面的な対決を求めているものではないと思われ、その証拠と言っては何ですが、思い切りこぶしを振り上げるふりはしていますが、決定的な対決を避けるかのように双方から小刻みな譲歩が行われています。あくまでも政治的駆け引きの域を出ない小競り合いであると思われます。
2019年8月に韓国は日本に対してGSOMIA協定を破棄することを通告、すったもんだの挙句11月に韓国は協定失効通告の停止を決定しました。日韓、あるいはこれに米国を加えてもドタバタ劇にしか感じられませんが、ここに中韓の関係を加えると大いに違った背景が見えてきます。
韓国はアジア大陸の東端に位置する国であり、そのアジアにおいて覇権国として台頭するとみられているのが中国です。GSOMIAは気に動きかけた韓国の選択も中国の今後数十年の動向を考えたうえでの選択であるとすると、日本、あるいは米国にとっても大きな意味を持ってくることになります。覇権国の入れ替わりには混乱がつきものです。注意が必要でしょう。
中国の経済状況については、そもそも中国に関しては、中国共産党の検閲済みのニュース・経済統計しか私たちは見ることができませんので、確定的なことは分からない、としか言いようがありませんが、それでも漏れ伝わる情報からは、いささか苦戦している様子がうかがえます。
年一回行われる記者会見において、中国国家統計局の寧吉赴ヌ長は中国経済の順調な成長を宣言しましたが、その内容についてはいささかの疑問も報道されています(現代ビジネス
中国経済のヤバイ実態を暴露した、ある学者の「発禁スピーチ」全訳 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59515)。
また、建設機械メーカーであるコマツが発表している建設機械の受注実績を見ると、2019年度はマイナスの数字が並んでいるのが見て取れます。
米国との貿易戦争は中国のマクロ経済への影響はどのようになっているのでしょうか。
China GDP Annual Growth Rate
Trading Economics (https://tradingeconomics.com/china/gdp-growth-annual)
まず、GDP成長率に注目すると、やはり、ややではありますが鈍化の傾向を見せています。
Trading Economics (http://www.tradingeconomics.com/china/currency)
人民元の場合、レートに関しては、直近の貿易摩擦の緩和のニュースを受けて人民元高へ振れているものの、2019年の8月には11年ぶりの安値である1ドル=7元台をつけていました(日本経済新聞 2019年8月5日 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48204200V00C19A8MM0000/)。
その他、株価のチャートは下記のとおりです。
China Stock Market (SSE Composite)
Trading Economics (https://tradingeconomics.com/china/stock-market)
中国は2015年に「中国製造2025」計画(日本経済新聞 中国製造2025とは https://www.nikkei.com/article/DGXKZO38656320X01C18A2EA2000/)によって、中国が文字通り世界の工場になる計画を発表しました。米国も同様の計画(国防省「Assessing
and Strengthening the Manufacturing and Defense Industrial Base and Supply Chain
Resiliency of the United States」Department
of Defense
https://media.defense.gov/2018/Oct/05/2002048904/-1/-1/1/ASSESSING-AND-STRENGTHENING-THE-MANUFACTURING-AND%20DEFENSE-INDUSTRIAL-BASE-AND-SUPPLY-CHAIN-RESILIENCY.PDF)が発表さています。双方とも長期計画ですので現時点で勝敗が決しているわけではありませんが、将来の二大覇権国と目される中国と米国は、しばらくこのような競り合いを続けていくものと思われます。
中国はその覇権意欲を隠さなくなってきました。南沙諸島や台湾といった中国本土周辺のみならず、一対一路構想の周辺諸国、遠くはアフリカや北極に対しても積極的に進出しています。先に帰した通り米中二か国の貿易交渉などにおいては、米中両国とも抑制的な反応を示していますが、地域紛争においてもそのような反応が維持されるかどうかは保証の限りではありません。特に、中国本土の周辺地域においては米中の同盟国も数多くあります。現状でも地域紛争ギリギリの応酬が続けられています。引き続き注意が必要だと思われます。
米国
米連邦準備理事会(FRB)は2019年合計3回にわたりフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を引き下げました。何やらトランプ大統領の再選に向け、何が何でも株価を維持するためなのではないのか、といった疑義もありますが、その後株価は史上最高値を更新していました。
ただし、パウエルFRB議長は同年11月の議会証言において、米国にとってマイナス金利は不適切であることを証言、また10月のFOMC後の会見でも今後の利下げも行わないであろうことを示唆していました(ロイター 米FRB議長「マイナス金利は不適切」、利下げ休止を示唆 https://jp.reuters.com/article/usa-fed-powell-idJPKBN1XN226)。
Dow Jones Industrial Average
Trading Economics
(https://tradingeconomics.com/united-states/stock-market)
2009年6月に始まったとされる米国の景気拡大局面は、NBER(National
Bureau of Economic Research)が現時点で発表している資料(http://www.nber.org/cycles.html)によれば現在も続いているようです。2009年以来ということですから、実に10年以上景気拡大が続いているということになります。
ドナルド・トランプ大統領が政敵に対する捜査をウクライナ大統領に働きかけたとされる疑惑をめぐる弾劾調査が開始されました。この件で弾劾される可能性は現時点では低いとみなされているようですが、注意が必要でしょう。
米国ではトランプ大統領ばかりでなく、それに対抗する米国民主党勢力の目下の関心は完全に2021年に行われる大統領選挙に向けられているようです。米国の政治的ムードは極端に内向きになっているといってよいでしょう。
現状は好況を維持しているかに思える売国の景気ですが、一方ではその退潮の兆しとも思える報道も見かけるようになりました。
日本のソフトバンクが巨額の出資をしたことで話題になったウィーワークですが、上場を前に多くの問題があることが発覚、9月には上場を取り下げるまでに追い詰められました。また、ソフトバンクは2020年3月期に5000億円近い関係会社評価損を計上すると発表しています(ロイター ソフトバンクG、4─9月期営業赤字156億円 ウィーワークなどで評価損 https://news.infoseek.co.jp/article/06reutersJAPAN_KBN1XG0RE/)。
そもそもウィーワークは共同オフィス事業で急拡大してきたわけですが、米国におけるオフィス需要の低迷などにより、事業に陰りが見えるようなのです。
フィナンシャル・タイムズの記事(日本経済新聞 2019年10月10日 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50842630Q9A011C1TCR000/)でも指摘されているように、欧米諸国における不動産に対する需要が低下している、そしてバブルはじけつつあるのであれば、単に不動産市場のみならずその他の金融市場を含む広範な不況をもたらすものであることは、日本人であれば鮮明に記憶しているのではないでしょうか。
本件に関連して、2019年10月BloombergにもCLO(Collagenized
Loan Obligation、リーマンショックを引き起こしたCDOの一種)の増加に対して警鐘を鳴らす記事が掲載されました(Bloomberg CLOの火薬庫、くすぶる危険性−高債務の米企業に迫るトラブル
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-10-25/PZTSZH6JTSE801)。注意が必要でしょう。また、本件に関しては、2019年11月、日本におけるCLOの投資残高が農林中金、MUFG、ゆうちょ銀行3行で突出しているとの報道がありました(東京新聞 2019年11月27日 「リーマン」類似、投資急増 https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201911/CK2019112702000149.html)。日本への影響も気になるところです。
United States GDP Growth Rate
Trading
Economics
(https://tradingeconomics.com/united-states/gdp-growth)
上記グラフからも成長率が低下しているのではないか、と思わせるものがあります。
United States
Unemployment Data
Trading Economics
(https://tradingeconomics.com/united-states/unemployment-rate)
United States Disposable Personal Income
Trading Economics
(http://www.tradingeconomics.com/united-states/disposable-personal-income)
失業率は低く、個人可処分所得も順調に増加しています。依然、個人としては景気後退が意識されるような状況にはなっていないようです。
現在米国の経済界では長短金利の逆転が話題になっているようです(Bloomberg
米長短金利逆転、株式相場の天井に向けてカウントダウン開始 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-08-15/PW9BLFDWRGG101)。短期金利より長期金利が高い状態が標準とされますが、この長短霧の逆転が起きると景気後退のシグナルとされています。
United States 2 Year note Yield vs.
10year Government Bond
Bloomberg
(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-08-15/PW9BLFDWRGG101)
United States 3 month bill yield vs.
10year Government Bond
Trading
Economics
(https://tradingeconomics.com/united-states/3-month-bill-yield)
記事にも引用されている2年物と10年物の比較のほか、3カ月物と10年物との比較も掲載してみました。金利の逆転に対する市場の反応はその時々の状況によって異なるようですので一概には言えませんが、このようなニュースが取り沙汰されること自体、市場関係者の間に天井感が出ていることがうかがわれます。
トランプ大統領は公約通り米国の貿易赤字削減のため各国との通商交渉を積極的に行い、2018年度にはメキシコ、韓国、カナダとの交渉を締結、2019年には日本との新貿易協定を締結しました。残るは中国になります。
中国に関してはすでに3年越しの交渉となり、懲罰的な関税を課す、いやそれは延期する、などドタバタが続いています。ただし、中国のパートでも記したとおり、それを以て米中が全面的な対決に至る、ということはなく、将来の二大覇権国がお互いの利益・権益の最大化をめぐって駆け引きを続けている、と見た方が正しいと思われます。
United States
Balance of Trade
Trading Economics (http://www.tradingeconomics.com/united-states/balance-of-trade)
統計からは若干ではありますが、貿易赤字額が減少していることがうかがえます。
2019年9月に米国は日本と新しい貿易協定に調印しました。日本側では貿易協定に関する協議において米国があまり強硬に要求を突き付けてくる、といったことがなかったため、日本のパートでも記した通りウィンウィンの協議だ、といった評価が下されているようですが、次回の大統領選挙が近づいてくると、得点稼ぎに日本との貿易戦争に勝った、という印象を作るために新たな要求を突き付けてくる、などと言うことがないとも限りません。要注意でしょう。
時事ドットコム https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_balance-trade20190417j-06-w330
2019年8月15日、トランプ大統領は貿易協定とは別に日本がトウモロコシを買ってくれると発表しました(朝日新聞 2019年9月24日 余るトウモロコシ、トランプ氏のウソ 安倍首相は忖度? https://www.asahi.com/articles/ASM9K443LM9KULFA00X.html)。ところが、それから2カ月ほど経過した後、民間からの購入希望申請がゼロであったと伝えられています(毎日新聞 2019年11月7日 https://mainichi.jp/articles/20191107/ddm/008/020/055000c)。
トランプ大統領が貿易協定とは別に日本にトウモロコシの購入を迫った背景には現在米国の農家が置かれている苦境に原因があるようです。
American Farm
Bureau of Federation
(https://www.fb.org/market-intel/farm-bankruptcies-rise-again)
American Farm Bureau of Federation
(https://www.fb.org/market-intel/farm-bankruptcies-rise-again)
上記のグラフ・図は米国農家が異常気象などの要因により借金を積み上げており、破産も増加していることを示しています。いわゆるコーンベルト地帯はトランプ大統領の大票田であると言われています。大統領選挙が近づいている現在、米国からの要求は強まりこそすれ弱まることはないでしょう。
いずれにしても、ドル/円の為替レートを予想する場合、米国の非常に厳しい貿易収支に対するスタンスを鑑みると、円安方向の余地があまりないのに対して、円高方面に対しては、米国と日本の交渉力の差もあり、円高方面の余地の方がはるかに大きい、と言えると思います。
EU圏
今年のEU圏の話題はBREXITに尽きると思います。一旦は2019年10月末で交渉結果の如何に係わらず離脱するとの決定が下されていましたが、すったもんだの末2020年1月末まで延長されたようです。2019年12月12日に総選挙が行われますが、その結果によって本当に英国民の総意が明らかになり、BREXITの行方が決定されるのかどうかさえよく分かりません。とりあえず2020年の1月末までゴタゴタすることだけが明らか、といった状態です。
また、2019年11月に長らくIMF専務理事であったラガルド氏が新しく欧州中央銀行(ECB)総裁に就任しました。就任会見において欧州各国(ドイツを名指し)が明確に金融緩和に変わって財政出動することを求めました。現時点においてその提言が行かされるのかは不透明ですが、現下の中銀バブルの出口戦略としてその効果、結果が注目されます(産経新聞 【激動ヨーロッパ】欧州中銀にドイツの壁 新総裁ラガルド氏の手腕は https://www.sankei.com/world/news/191122/wor1911220001-n2.html)。
失業率は引き続き低下している、つまり雇用の拡大は続いているようです。
EU圏の雇用に関して、面白いグラフを発見したのでご紹介しておきましょう。
Eurostat
This article provides an overview of regional unemployment rates across the 281
NUTS-2 regions of the European Union (EU) in 2018, compiled by Eurostat on the
basis of data from the EU Labour force survey (https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=Unemployment_statistics_at_regional_level).
上図はEU内の281地域の失業率を地図と重ね合わせて表示したものです。失業率の高い地域、低い地域がくっきりと二分されていることがうかがえます。
ヨーロッパ二千年の夢であったヨーロッパの統一が戦争なしで実現できた理想の共同体EUですが、その内部では思いもよらない格差が生じているようです。ヨーロッパの場合、このことが直ちに紛争に結びつく訳ではないでしょうが、この地図の北東側にはロシア、東側には中近東が続いています。この地域からは米国が意図的にプレゼンスを低めようとしており、その間隙を突いて支配地域を広げようとしている各国の思惑が渦巻いています。注意が必要でしょう。
Real GDP growth, 2008-2018
Eurostat (https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=National_accounts_and_GDP)
中国だけが別格の成長率を示していますが、それ以外の先進諸国の成長率は低位に収斂しているように見えます。
欧州株価推移
Trading Economics(https://tradingeconomics.com/euro-area/stock-market)
ユーロ圏の上位銘柄によって構成される株価指数であるSTOXX 50ですが、2018年度の下落傾向から脱却、高値を目指して上昇中です。
EUR/USD
Trading Economics(https://tradingeconomics.com/euro-area/currency)
2019年も2018年に引き続き為替レートは対ドルで弱含んでいます。
様々な混乱が引き続きEU圏の足を引っ張っているようで、曲がりなりにも経済の好調を維持している米国に対しては分が悪かったようです。
Germany Zew Economic Sentiment Index
Trading Economics(https://tradingeconomics.com/germany/zew-economic-sentiment-index)
EU圏の機関車、ドイツ経済の景況感を示すものに、民間調査会社であるZEW(欧州経済研究センター(ZEW:Zentrum
fur Europaische Wirtschaftsforschung:Centre for European
Economic Research
))が発表する景気先行指数があります。向こう半年の景気見通しに対する調査で、この指数が50を超えると景気が良いと判断されるのだそうですが、2018年4月にマイナスに転落して以来、ずっとマイナスが続いています。
2020年も同様の状況が続くとみられるユーロ圏ですので、対円での為替レートも円高を予想します。
ロシア
2018年末に日本に無条件の平和友好条約の締結を呼びかけたものの、はかばかしい進展はありませんでした。
混乱が深まる中東地域でのプレゼンスを増しつつあるロシアですが、国内からは経済の低迷(日本経済新聞 2019年8月13日 ロシア経済、低成長続く 4〜6月も1%割れ 政権に不満強まる https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48498350T10C19A8FF8000/)、支持率の低迷(プレジデント・オンライン 支持率低迷のプーチンが不人気政策をやるワケ https://president.jp/articles/-/29572)といったニュースばかりが流れてきます。様々な策を弄してロシア大統領の地位を独占してきたプーチン大統領、任期そのものは2024年までありますが、さすがにレームダック現象が起きているようです。
USD/Russian Ruble
Trading Economics (https://tradingeconomics.com/russia/currency)
ドル/ルーブル相場は、2018年米国の経済制裁発動の後下落、2019年はそこから大きく回復したわけではありませんが、安値水準ではありますが安定的に推移しています。
Crude Oil
Trading Economics (https://tradingeconomics.com/commodity/crude-oil)
2018年には中近東の紛争を受けて乱高下していた原油価格もここに来て安定的に推移しているようです。ロシアはサウジアラビアに次ぐ石油輸出国ですので、石油価格はロシア経済に対して大きな影響力を持ちます。
世界の石油輸出額
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世界の石油輸入額
国別ランキング |
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GLOBSL NOTE (https://www.globalnote.jp/
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中東
米国が2018年5月に駐イスラエル大使館をイスラエルのテルアビブからエルサレムに移転しました。当初追随すると発表した国もありましたが、実際に移転した大使館はまだないようです(AFP 在イスラエル米大使館のエルサレム移転から1年、影響と現状 https://www.afpbb.com/articles/-/3224685?page=2)。
米国の中東地域のプレゼンス低下は、世界の警察官の役割から米国が離脱しようとしている現状、必然であったと思われます。一部ではトランプ大統領の個人的な好みでこのような政策がとられている、と思われているようではありますが、筆者は、これはオバマ前大統領以前からの方針であったように思われます。
トランプ大統領のシリアからの撤退宣言を受け、さっそく行動を起こしたのがトルコでした。テロ集団攻撃を名目としてシリア国内のクルド人居住地域を攻撃しています。なぜクルド人か、などの問題は本予測の守備範囲でもありませんし、筆者の知識・能力を越えた領域ですのでここではとくに論評しません。
USD/Turkish Lira
Trading Economics
(https://tradingeconomics.com/turkey/currency)
Turkey Foreign Exchange Reserves
Trading Economics
(https://tradingeconomics.com/turkey/foreign-exchange-reserves)
2018年、アメリカ人牧師の拘束をめぐる米国の経済制裁の影響を受け急減した外貨準備も2019年には回復しているようです。ですが、今般のシリア侵攻をめぐる新たな経済制裁で外貨準備が急減しているとの報道もあります(Reuters
焦点:トルコのシリア軍事作戦、通貨リラが行方を左右
https://jp.reuters.com/article/turkey-lira-syria-idJPKBN1X00BB)。
トルコのみならず、イランも米国の核合意からの離脱を受け、ウラン濃縮再開を宣言、新型の遠心分離機も導入するなど対決姿勢を強めています(Newsweek
イランが高性能遠心分離機導入 米制裁強化に反発、ウラン濃縮加速へ https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/11/post-13330.php)。
その他、中東地域ではサウジアラビアの動向も気になるところです。2019年5月、サウジアラビアのタンカーと石油施設がドローンによって攻撃されました。イランがその背後にいるのではないかなど取り沙汰されましたが、イエメンのフーシ派勢力が名乗りを上げました(Newsweek
サウジのタンカーと石油施設にドローン攻撃? イランに同調・支援受ける勢力か https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/05/post-12122.php)。現状では確証がなく、またその後の攻撃も起きていませんので、はっきりとはしませんが、具体的な軍事力の行使が起きていますので、今後の動向には注意が必要でしょう。偶発的事件がその後の大きな紛争のきっかけになるかもしれません。
結論
2019年10月30日、FRBは今年3度目の利下げを決定しました。同日S&P500は過去最高値を更新しています。株価が最高値を更新しようという時点で利下げするというのは、いくら予防的であるとはいえ、中央銀行の常道からはかけ離れているように思います。常道からかけ離れた相場がいつまでも続くはずはないと思います。
2019年11月、IMFのゲオルギエワ専務理事は世界で債務が膨張し、2018年末時点の暫定値で188兆ドル(約2京5000兆円)となり、過去最高を更新したと明らかにしました。この額は、世界全体の総生産(GDP)比で約230%に達し、「経済と金融安定にリスクをもたらす」と警告したそうです(時事通信 世界債務、最高の188兆ドル=金融リスク警告―IMF専務理事 https://www.msn.com/ja-jp/money/news/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%82%B5%E5%8B%99%E3%80%81%E6%9C%80%E9%AB%98%E3%81%AE%EF%BC%91%EF%BC%98%EF%BC%98%E5%85%86%E3%83%89%E3%83%AB%EF%BC%9D%E9%87%91%E8%9E%8D%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E8%AD%A6%E5%91%8A%E2%80%95%EF%BD%89%EF%BD%8D%EF%BD%86%E5%B0%82%E5%8B%99%E7%90%86%E4%BA%8B/ar-BBWqhbq)。典型的なバブル崩壊への危機表明です。
2020年には東京オリンピックが開催されます。オリンピック前は様々な公共事業が行われますので景気にもそれなりの好影響があります。が、開催後にはそれらはすべてなくなりますので、景気は急減速、不況になる、などともいわれています。著名な投資家事務・ロジャースさんも「日本は東京五輪で衰退する」と警鐘を鳴らしています(東洋経済 https://toyokeizai.net/articles/-/312710)。
現在の世界的な中央銀行バブルともいえる状況がいつはじけるかを予想するのは困難ではありますが、もしそのような事態が起きたときには、今までに起こった事象のはんたいのうごき逆転が起きると思われます。日本の場合で言えば、アベノミクスによる円安、株高とは逆方向の現象が起きる、つまり円高と株安が同時に起きることになると思います。
本レポートは、為替状況の参考となる情報の提供を目的としたもので、いかなる投資勧誘を目的としたものではありません。本レポートは大國亨が信頼できると考える情報に基いて作成されていますが、その情報の正確性及び完全性に関していかなる責任を負うものではありません。本レポートに記載された意見は作成日における判断であり、予告なく変更される場合があります。