2005年7月
たまには歴史書など紐解いてみましょう。
ローマ人の物語I ローマは一日にして成らず パクス・ロマーナ ローマ人の物語VI 最後の努力 ローマ人の物語XIII言わずと知れた塩野七生さんのライフワークです。1992年から刊行が始まり、未だに新刊が出版されています。全部で15冊のシリーズを予定しているそうです。シリーズ全部が出版される前に文庫版も出てしまいました。塩野さんはそんなにお若くないはずですが、ものすごいパワー。圧倒されてしまいます。現在刊行されているのは13冊。あと2冊です。がんばってください。
一般に古代ローマとはBC753年の伝説上のローマ建国からAD476年の西ローマ帝国滅亡までを指しています。おそらく塩野さんの著作も5世紀で終了するのでしょう。ま、ざっと見積もって1200年。あの安定の徳川幕府でも2百数十年(天皇制は2千数百年ですが)ですから、大したものです。簡単に亡んだような気がするのはあくまでも気のせい。
ところで、2千年も前のローマの話を読んでいても、全く昔話だという気がしません。もちろんそれが塩野さんの狙いなのでしょうが、その合理性には驚くばかりです。
今から2千年前に都市計画を行ない、上下水道完備の衛生的な都市を作っていたローマ人には感心します。もっともローマのさらにずっと前のモヘンジョダロやハラッパーも上下水道は完備していたといわれています。要するに人類はちっとも進歩していないんですね。それどころか退歩してしまった時代もあるみたいですね。ローマ時代はガリアと呼ばれていたフランスのベルサイユ宮殿にはトイレが無く、皆さん(オスカル様も)お庭でウンコしていたそうですから。フランス革命の頃ですよ。
あと、ローマ人で不思議なのは、不老長寿に対する欲求が非常に弱かったことです。洋の東西を問わず、不老長寿、健康は人類最大の悩みです。ところが、ローマ人は皇帝たちですら不老長寿を求めなかったそうなんです。死にそうになると自殺してしまうくらいなんだそうです。同じ頃の中国皇帝が不老長寿ばかり求めていたのとはえらい違いではありませんか。現代人的、というよりは現代人より数段進んでいるのではないでしょうか。
当時のローマ人は非常に衛生を尊びましたので、ひげはきれいに剃っていました。ひげを生やしていたのはガリア人などの野蛮人種。でも、このころ、どうやってひげを剃っていたんですかね。剃刀はあったでしょうけど。知りたい。女性である塩野さんには髭剃りの快感が分からないのかな。
野蛮人といえば、当時のローマ人の主食は小麦。肉なんぞは野蛮人が食べるものだったそうです。現代のイタリア人の牛肉消費量はヨーロッパNo.1。野蛮人になってしまったのでしょうか。
ローマ人の物語のシリーズは現代日本の経営者の必読書になっているそうです。経営学を学んでいるそこのあなた、夏休みにひとついかがですか?
アダム・スミス(1759)水田洋訳(2003)『道徳感情論』上 下 岩波文庫
歴史の本ではありませんが、アダム・スミスの道徳感情論にも面白い発見がありました。アダム・スミスの『国富論』によって、資本主義社会における経済主体がばらばらに利己的利益心を追求しているように見えても、神の「見えざる手」の導きによって社会全体が調和に発展していくものとさたと主張されてきました。
実は、個人の欲望を肯定し資本主義の基礎を築いたといわれるアダム・スミスも、絶対的に手放しで利害関係だけから成り立つ社会を肯定しているのではありません。『国富論1,2,3,4』以前に書かれた『道徳感情論』ではアダム・スミスは単にそのような社会も存立しうる、としているだけです。
「人間社会の全成員は、相互の援助を必要としているし、同様に相互の侵害にさらされている。その必要な援助が、愛情から、感謝から、友情と尊敬から、相互の提供されるばあいは、その社会は繁栄し、そして幸福である。」
「しかし、必要な援助がそのように寛容で利害関心のない諸動機から提供されないにしても、その社会は、幸福さと快適さは劣るけれども、必然的に解体することはないだろう。社会は、さまざまな人びとのあいだで、さまざまな商人のあいだでのように、それの効用についての感覚から、相互の愛情または愛着がなくても、存立しうる。」
「社会は、しかしながら、互いに害をあたえ侵害しようと、いつでも待ちかまえている人びとのあいだには、存立しえない。」(『道徳感情論』上巻pp222-223)
アダム・スミスの著書は歴史的名作なのかもしれませんが、読んでいてちっとも面白くなかったのも事実です。しかし、他人の主張を真に受けていると、あらぬ誤解をしてしまうこともあるようです。やはりオリジナルが何であったかを確かめなくてはいけないようです(私は日本語訳に頼ってしまいましたけど)。
2005年6月
小倉昌男 (1999)『経営学』 日経BP社/日経BP出版センター
ご存知クロネコ・ヤマトの宅急便の創設者が書いた経営哲学の本です。経営学の研究を始めたころに読み、大変感動いたしました。
ですが、最近クロネコ・ヤマトをめぐって面白い記事を見つけました。ご存知のとおりクロネコ・ヤマトは郵政当局と郵便物の取扱で大喧嘩してきました。クロネコ・ヤマトはメール便の取扱を始めたのですが、未配達(配達員が配達をネグった)という事件が起こりました。
宅急便のクロネコ・ヤマトの配達員は全員正社員です。これは『経営学』でも強調されています。しかしメール便の取扱を始めるにあたり、コスト面から委託契約社員(平たく言えばアルバイト)を使うことになりました。その結果だけかどうかは分かりませんが未配達が発生したのです。
ここではこれ以上詳しく書けませんが、業務・人事管理の観点から非常に興味ある案件だと思いますので、是非論文にまとめてみたいと思います。
ジョン・フランシス・ウェルチ /ジョン・A.バーン(2001)『ジャック・ウェルチわが経営』日本経済新聞社
20世紀最高の経営者の書いた経営と人生哲学の本です。世界中でベストセラーになったように思います。経営学のテキストとしても頻繁に取り上げられていました。私の勤める会社でも社長がレクチャーで取り上げておりました。
でも、私は一読してジャック・ウェルチが大嫌いになりました。投資の一環としてGEの株を買うことはあっても、絶対にこんな奴の下で働きたくないと思いました。
巨額の退職金とか公私混同のふるまいでその後だいぶ批判にさらされましたが、正直言ってざま見ろとしか思いませんでした。
カルロス・ゴーン /中川治子(2001年)『ルネッサンス 再生への挑戦』ダイヤモンド社
驚くべきスピードで日産を建て直し、今や親会社ルノーのCEOになったカルロス・ゴーンが世界各地で成果をあげた経営手法を公開しています。ジャック・ウェルチよりは好感が持てました。日産に勤めている友人も、「コストカッターの下ではやりにくいでしょ」、と私が聞いたところ、「そんなことないよ、とにかく面白いよ」、といっていました。この本を読んで、その理由の一端が分かったような気がします。