2025年12

伊藤 毅ルールの世界史』日本経済新聞出版

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ルールの世界史 [ 伊藤 毅 ]
価格:1,980円(税込、送料無料) (2025/10/25時点)

著者の伊藤さんはルールメイキング/スキームメイキングに特化した法律事務所の代表取締役を務める弁護士さんです。

「この本は、今のルールを変えたいと思った人や、ルールを変えないといけない人のために書きました」のだそうです。ルールがおかしいと思ったからと言って、ルールを破って良いということにはなりません。ルールを破ると思ってもいなかった制裁を受けることにもなります。「本書では、経済活動を中心にそれぞれのルールがどのようなテクニックを利用したのかを分析していきます。それによって、ルールの変え方もわかってくるはずです」。なかなか柔軟な考え方をしてくれる弁護士さんのようです。まあ、こういうタイプの人は同じ法曹資格を持つとはいえ、裁判官とか検察官は目指さないんでしょうねえ。

本書で取り上げるルールはビジネス関係のものがほとんどです。その手のルール(法律)になじみのない方にはいささかとっつきにくいかもしれません。ただ、本書の主眼はそのようなルールの解説ではなく、なぜそのような法律ができたのか、といったバックグラウンドやそのようなルールを変えようと思ったらどんな点を突くと効果的か、なんて話がメインですので、個々のルールに明るくなくても読み進められると思います。

なかなか面白かったですよ。

 

 

ジョージナ・スタージ 尼丁律子訳『ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか』集英社コモン

 

本書の原題は『BAD DATA』というものです。意味は「統計学的に理想的なデータに紛れ込んで分析を邪魔する粗悪なデータ」のことだそうです。ノイズなんて言われているものもそのたぐいでしょうね。本書のテーマはそのような「危険な誤情報」です。

本書に面白いことが書かれていました。「業者は、イングランドのトップリーグで行われる全試合の内容を手作業で記録するために、大勢の人を雇っている。試合の進行中、記録要因たちはコンピューターに向かい、リアルタイムで表示される試合の様子とピッチの図が重なって表示される画面上をクリックしながら、すべてのパスやタックル、ボールタッチを記録する」のだそうです。本書は著者がイギリス人ですのでサッカーのプレミアリーグの例が挙げられていますが、アメリカでは大リーグ、フットボール、バスケットボールなどで同じようなことが行われているでしょうし、日本でもプロ野球などで同様のことかなされているのでしょう。しかし、こんなことが人々の政治的傾向を監視するために行われたとしたらどうでしょうか。まさにビッグブラザーが監視しているとしたら。まあ、政府の提供するサービスの質は向上するんじゃないですか。でも、私はそんな国には住みたくありませんねえ。

ま、それはそうなのですが、ではがちがちに監視されるのが嫌な場合どうなるかというと、統計の専門家たちは推計に頼ることになります。もちろんあてずっぽうなんてことはなく、統計学に基づいた推計になります。で、どの失敗例が本書にはたくさん出てきます。ではどうすればよいのか。「私たち国民にできるのは、落としどころを見つけ出すことだ」だそうですよ。

 

 

岩男 俊兵世界は経営でできている』講談社現代新書

岩男さんは慶應義塾大学商学部准教授。ですから本書の「はじめに」で「日常は経営でできている」なんてデカイことを言っちゃっているのも、ある意味当然な訳です。「仕事にかぎらず、恋愛、勉強、芸術、科学、歴史……などあらゆる人間活動で生じる不条理劇は、「経営という概念への誤解」からもたらされる」って宣言しちゃってます。そんなに何でも解決でき学問があるなら、そもそも不条理劇なんて起きないんじゃないか、とも思うわけですが、この宣言が出てくるのは本書の冒頭。まあ、読んでみましょう。

「本来の経営は「価値創造(=他者と自分を同時に幸せにすること)」という究極の目的に向かい、中間目標と手段の本質・意義・有効性を問い直し、究極の目的の実現を妨げる対立を解消して、豊かな共同体を創り上げること」という経営の理念を解き明かして行くわけですが、なんとも軽妙な筆致で読ませます。

本書で何度も出てくるキーワードは「目的地手段の不整合」「目的と手段の転倒」。具体的に何を意味するか、は本書をお読みくださいね。

本書では価値は創造できるものであると指摘しています。有限ではなく無限にある。であるとすれば、他者は価値を奪い合う相手ではなく、価値を創造し合う仲間になれる。経営学もなかなかやるもんですな。

 

 

ギヨーム・ピトロン 児玉しおり訳『なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか ネットの進化と環境破壊の未来』原書房

クラウド化のためのデータセンターが世界各地に作られ、データ送信のために海底を埋めつくす通信ケーブル。膨大な電力や資源が「デジタル化」へ注ぎ込まれる現代。「持続性」の見えないデジタル社会に答えはあるのか。

私たちはデジタル社会のまさに幕開の時代に生きています。私たちがネットサーフィンをしているときにはあまり意識していませんが、実はその裏で膨大な資源が使われています。電力はもちろん、コンピュータなどの生産、輸送など、通信機器の設置、維持などなど。物的な資源はもちろん、人的な資源だって膨大な量を必要としています。それを未来永劫に続けていくことは可能なのでしょうか。どうなんでしょうね。ま、だめならだめでしょうがない、のかなあ。それとも、破綻を避ける方策でもあるんですかね。

 

 

 

2025年11

江原 絢子監修『教養としての和食 食文化の歴史から現代の郷土料理まで』山川出版社

2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されました。で、“和食”は日本では教養の一部と見なされるようになりました……、という訳でもないでしょうが、外国人観光客に和食って何、なんて訊かれて何も答えられないようじゃまずいだろう、ってこと本書を紐解いてみました。出版元があの山川出版だからって教科書みたいな堅苦しい本、なんてことはありませんよ。

 

 

かげはら史帆ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』河出文庫

1977年、ベートーヴェン没後150年を記念する「国際ベートーヴェン学会」において、ベートーヴェンの「会話帳」にベートーヴェンの死後、故意に言葉が書き足される、あるいは抹消している形跡がある、という発表がありました。ベートーヴェンの「会話帳」とは、聴覚を失ったベートヴェンが他者とのコミュニケーショツールとして使っていたメモ帳のことです。ただし、「会話帳」とはいうものの、書くのはもっぱら会話相手で、聴覚に問題はあったものの発語機能には問題のなかったベートーヴェン本人は「会話帳」を読んで口で返答していたようです。書くのとしゃべるのではスピードが全然異なりますので普通に考えるとコミュニケーションに支障がありそうですが、ベートーヴェン本人は何か聞かれると簡潔な答えを返す、なんてことはなく、べらべらと長口舌を繰り出すタイプだったらしく、あまり問題にはしていなかったようです。で、この「会話帳」は結構な冊数があったらしいのですが、ベートーヴェン没後晩年の秘書であったアントン・フェリックス・シンドラーが不必要と判断したものを廃棄したりいろいろな意味で不都合と判断した部分には加筆したり、といわゆる捏造をしていたらしいのです。

実はこのシンドラーという人、ベートーヴェン没後に「全部で三バージョンの『ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン伝』を書いている」方で、日本語訳もあるそうです。後の音楽学者とか研究者が書いた伝記ではありませんので、ま、いろいろと大人の事情があるのでしょう、いろいろと工夫して書かれているわけです。工夫の中は元の「会話帳」の改竄、なんてものまであったようです。

先ごろ映画化もなされご存知の方も多いと思います。面白い一冊でした。

 

 

トリ・テルファー世界を騙した女詐欺師たち』原書房

 

「この言葉は彼女に限らずどの時代の女詐欺師にもほぼ当てはまるはずだ。「実際に会えば、みんな彼女を好きになる」。」詐欺師ってのは男女問わず大変魅力的なようです。まあ、会ってちょっと話しただけで嫌われてるようじゃ人は騙せませんからね。

でもですね、本書に登場する女詐欺師たちもなかなかなものですが、彼女たちが捕まり有名になると、決まって“誰々の精神強壮剤”なんてものが売りに出されるとか顔写真を貼り付けた偽札が売りに出されるとか、何とかあやかろうと思う輩が続出したそうです。そんなものを堂々と売りに出すなんて、皆さん本書の女詐欺師たちに負けず劣らずご立派な詐欺師だと思いますがいかがでしょうか。

ただ、本書の原題が“Confident Women”であることからも分かるように、本書では必ずしも大物女詐欺師ばかりが採り上げられている訳ではありません。ご留意くださいね。

本書を読んだからといって何か教訓が得られる、というものでもないでしょうが、読んで面白い一冊でした。

 

 

NHK取材班ホンダF1 復活した最速のDNA』幻冬舎

ホンダという会社は1960年代以来何回かF1に挑戦しているのですが、なぜか継続して挑戦し続けるということはなく、断続的に、つまり何度かの中断をはさんでいます。F1への挑戦には近年特に巨額の資金が必要となりますので、金の切れ目が縁の切れ目になってしまう場合も多いのですが、欧米のF1挑戦例を見ると、撤退する場合は完全に撤退、という例が多いような気がします。ホンダのようにF1挑戦と撤退を繰り返すという例はあまり聞きません。メルセデス・ベンツくらいですかね。そういえば、メルセデス・ベンツもホンダも大手自動車会社です。フェラーリあたりのレース専業(市販車も作ってますが)の会社とはやはり企業文化に違いがあるのでしょうか。本書はそんな本田の2015年から始まる(エンジンの開発は2013年に始まっていたみたいですが)第4期のF1挑戦の物語です。

4期も、参入前は早期に成功を収め……、という青写真を描いていたのですが、うまくいかない。ここら辺は、うまくいっていない会社の経営にも通ずるものがありますね。どんな会社の経営でも、うまく行っているときってのは誰が経営者でも、どんな手を打ってもうまくいくもんです。ところが、ひとたび歯車が狂い始めるとどんな名経営者が何をやってうまく行かなくなるものです。ま、ここら辺は『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』などをご参照ください。で、ホンダはドツボにはまったとき何をやったのか、は本書をお読みください。なるほどそんなことをやったのか……。ま、本になっているくらいですから結末は……。そこら辺の経緯は本書ご参照ください。

ホンダのF14期は2021年で終了することが発表されました。本書のクライマックスはその2021年シーズンの戦いに置かれています。

2021年シーズンのドライバーズ・チャンピオンはレッドブル・ホンダに乗るフェルスタッペンが獲得しました(コンストラクターズ・チャンピオンはメルセデス)。有終の美を飾って本書は終わります。そしてホンダはF1から撤退、のはずでしたが、翌年からエンジン供給者の名義はレッドブル・パワートレインズに変わりましたが、引き続きホンダ(この年からホンダ・レーシング(HRC)の名義に)が2025年まで製造と供給を行うことになりました。あれ、撤退じゃなかったの?2026年にはパワーユニット(エンジン)に関する規定が大きく変更されます。ホンダはF1に復帰するのでしょうか?と書いたところで、「自動車レース最高峰のF1シリーズに、ホンダが2026年から復帰し、エンジンを中心としたパワーユニット(PU)を英アストン・マーチンに供給すると正式に発表がありました。大人の事情ってやつでしょうか。

本書にはかなりテクニカルな話も出てきますので、クルマ、あるいはF1の技術動向に詳しくない方にはちょっととっつきにくいかもしれません。そんな方でも、プロジェクト・マネジメントのケース・スタディの本として読めるのではないでしょうか。「できない理由はいらない。どうやったらできるかを考える」「失敗することを恐れるより、むしろ失敗を恐れて何もしないことを恐れなさい」

おすすめの一冊でした。

 

 

2025年10

ドナルド・P・ライアン 田口未和訳『古代エジプトの日常生活 庶民の生活から年中行事、王家の日常をたどる12か月』原書房

古代エジプト文明は紀元前3050年ごろに確立されたのだそうです。かの有名なプトレマイオス朝最後の女王クレオパトラが亡くなるのが紀元前30年のことですから、古代エジプトってのは3000年以上続いたことになります。私たちの使っている西暦だって2000年ちょっと、日本の皇紀だって2700年弱。エジプト文明ってのは意外と長く続いたんですね。

で、エジプト文明っていうと、ピラミッドとかミイラとか有名なアイコンがありますのでイメージしやすいのですが、では一般庶民がどのような暮らしをしていたのか、と言われると、途端にイメージが乏しくなります。支配者たちがピラミッドなどにその事績を記録したのと比べると一般庶民の記録というのはなかなか残りにくいものですが、本書はその希少な記録からアメンホテプ2世統治の時代に、様々な職業に従事する庶民がどんなふうに一年を過ごし、何を考えていたかをライアンさんが再構築した、「一種の歴史に基づいたフィクション」です。とはいえ、ライアンさんは「考古学者。パシフィック・ルーテル大学人文学部フェロー。主な研究テーマはエジプトの考古学、ポリネシアの考古学、古代の言語と文字」という方ですので、かなり信頼性は高いと言って良いと思いますよ。

 

 

ロバート・ガーランド 田口未和訳『古代ギリシアの日常生活 生活文化から食生活、医療、仕事、軍事治安まで』原書房

で、こっちが上記の本のギリシャ版。

本書の舞台になっているのは紀元前420年のギリシャ。「アテナイ人の人的資源は恐るべき疫病のあとで、ようやく力を取り戻しつつあるところで、東地中海を支配する海洋帝国を築き、それ以前の、そしてそれ以降のどの社会よりも一般市民の判断に信頼をおく民主的な社会に成長している」時代です。前述のエジプトより1000年ほど後のことになります。この後、アテナイはスパルタとその同盟国に滅ぼされますので、アテナイが最後の輝きを見せている時代、言えるかもしれません。

ただし、ギリシア文明、とひとくくりに言及しがちですが、古代民主制の頂点に輝いていたのはアテネのほかには、どのくらいあったのでしょうか。本書に言及はありませんが、ネットには「民主政は、ポリスと呼ばれる古代ギリシア固有の都市国家に誕生したが、それは全体の三分の一程度にとどまり、それ以外のポリスは最後まで貴族政 (寡頭政) か僭主政 (独裁政) のいずれかであった」なんて記述を見つけました。まあ、一般的とは言えなかったみたいですね。民主政治というものは、いつの時代でも国民全体で大いに努力しなくては維持できないもののようですね。今だって……。

 

 

岩波 明高学歴発達障害 エリートたちの転落と再生』文春文庫

「正確なデータは存在していないが、高学歴の人の発達障害の比率は明らかに高いものがある。以前、東京大学の保健管理エンターが東大生を対象に発達障害の比率を調査したことがあったが、結果が高過ぎたため、公表されなかった」著者の岩波さんは東大医学部卒、現在昭和大学医学部精神医学講座主任教授という方ですので、リアリティーがありますねえ。ありすぎるくらい。

本書ではADHD(注意欠如多動性障害 Attention-deficit and hyperactivity disorder)やASD(自閉症スペクトラム障害 Autism spectrum disorder)といった障害を持つ方が多く登場します。以前は正常な人間とこれら障害を持つ人間の間には深い溝があり、こっち側とあっち側、みたいに明確に区別できると思われていました。ところが、最近では深い溝ではなく、白から黒までのグラデーションのあるグレーが広がっている、という風に理解されているようです。あなただって私だって100%真っ白、なんてことはなさそうですよ。

 

 

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー【中古】リスクマネジメント 変化をとらえよ 』日経BP

「リスクの語源はイタリア語のRiscareという言葉に由来する。この言葉は「勇気をもって試みる」という意味を持っている」のだそうです。ですから、リスクとはひたすら避ければ良いのではなく、リスクをリスクとして意識しつつもリスクをマネージしそのうえで成果を上げて行かなくてはいけない、ということが読み取れます。そうであるとすれば、リスクマネジメントとは経営そのものであると言えるでしょう。本書はそのような認識のもと、リスクとリターンを最適化するためのリスクマネジメントの考え方を解説しています。

本書の巻末には100名近い執筆陣の名前と略歴が記されています。本書が300ページを越える大部の著書になった要因でしょう。何しろコンサルティング会社ってやつはクライアントへの提案書の出来がすべて、ですからね。うーん、長かった。おまけに、やたらとカタカナ語やアルファベットの略語が多かったな。

 

 

2025年9月

トマ・ポルシェ 岩澤雅利訳『「「経済学」にだまされるな! 人間らしい暮らしを取り戻す10の原則NHK出版

ポルシェさんはフランスの経済学者(ポルシェだからってドイツ人ではありません。アルファベット表記の綴りも違います)。2011年にフランスで結成された「いかれる経済学者たち」というグループに参加しているそうです。

現在の政財界では新自由主義的な思想(何でも自己責任!!)が主流になっていますが、ポルシェさんは、このような主義主張は科学的真実(学問的意味で)ではなく、「特定の時期の力関係と経済的信念が組み合わされたもの」に過ぎないと喝破しています。新自由主義的主張のもと改革だなんだの必要性が声高に叫ばれますが、そんなものは「経済学者が何と言おうといったん改革がなされれば誰かがほかの誰より多く利益を得ることになる」。日本でも構造改革とか言って大臣職を歴任した後人材派遣などを手掛ける会社に天下りした著名な経済学者さんがいたような気が……。ポルシェさんは「経済においては理論面でも実践面でも、労働市場の柔軟性と失業の程度との間につながりはない」って言ってますよ。あらら。

ですから、こういった難局で必ず出てくる“改革” が政策として適切なものであるかを考える際役に立つのは、刑事もののテレビでおなじみの、誰の利益になるのかを考えることのようです。そうやって考えてみると、そう言えばあれも、これも……と思い当たる節があるのではないでしょうか。

別のところでは「失業が増加した原因は何よりもまず、経済上の愚策によるのであって、失業者の意欲が足りなかったからでも、職業訓練に不備があったからでもない」としています。だから1929年(大恐慌)とか2008年(リーマンショック)のときに失業が増えたのです。日本で失われた10年(最近では失われた30年とも)が起きたのは日本経済の運営に失敗したからなんだって。責任者出てこい出てきたためしないな。

本書では自由貿易主義のまやかしについてもふれられています。第2次トランプ政権の関税政策の結論はまだ出ていませんが、どのような結論が出るのか、興味が湧きますね。そう言えば、イギリスも2016年、自由貿易何てまっぴらだって言ってEUを離脱しちゃいましたよね。結構時間が経ってますが、結論は得られたんでしょうか。気になりますね。

あまりにも正鵠を射た指摘の数々。皆様もぜひご一読を。

 

 

青木 雄二 宮崎 学土壇場の経済学』幻冬舎アウトロー文庫

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著者の青木さんはご存知の通り『ナニワ金融道』(全19巻セット)の作者、宮崎さんは「グリコ・森永事件の犯人として全国手配された、あの「キツネ目の男」と疑われ、事件の「最重要参考人」とされた御仁」です。なかなかのお二人ですねえ。

そんな社会のウラのウラまで通じているお二人が「リストラ、倒産、自己破産、自殺者急増などなど、大転換期を迎えている今の日本にあって、改めてゼニや資本主義の本質を問い直し、同時に借金やリストラ等の問題への対処法、逆襲法」なんてものを語り合ったのが本書です。本書が出版されたのは1998年ですが、「資本主義の弱肉強食の原理がモロ出しに」なっているのは、現在の方がより強烈なんではないですかね。今では、日本の経済社会だけではなく、世界の政治状況が弱肉強食モロ出しになっちゃってます。

ファイナンシャル・プランナーなんぞの書くお金の本には間違っても出て来ないディープなゼニの真実が満載です。読み物として読むだけでも面白いですよ。

 

 

前野 理智サービサーの朝』伏流社

サービサーというのは、あまり耳になじみのない言葉ですが、平成10年に成立した「サービサー法」(債権管理回収業に関する特別措置法)に基づいて設立された会社(債権回収会社)です。サービサー法というのは、バブル崩壊後の不良債権処理の切り札として成立したもので、この法律によって従来弁護士法72条に基づいて弁護士の独占業務とされていた債権回収行為が、法務省の許可を受けたサービサーに限って解禁されることになりました。本書はそのようにして設立されたサービサーに在籍していた元社員がその実態について告発したものです。

不良債権処理の切り札とは言うものの、やっていることは不良債権を金融機関から買い叩き、買った債権の中からある程度でも回収できれば元は取れる、というのがビジネスモデルです。まあ、上記『土壇場の経済学』で出てくるようなものすごい話はあまり出てきませんが、大同小異。これ以上のことは本書をお読みください。

一番面白かったのは、コンプライアンス無視の労働慣行が横行することに抗議、辞職の後、労働基準監督署に告発に行くと、「あ、その社は……。」なんて言われてしまうエピソードでしょう。労働基準監督署の行政指導なんぞ、ガン無視してしまうような会社の場合、「行政指導」そのものが意味をなさないらしいのです。私の働いていた範囲では労働基準監督署から行政指導を受けるなんて大変なことでしたが、それをガン無視する会社があるなんて……。本書はフィクションですが、実例がなきゃこんなこと思いつかないでしょ。なかなか強烈なもんですな。

 

 

エミン・ユルマズエブリシング・バブル 終わりと始まり 地政学とマネーの未来2024-2025』プレジデント社

ユルマズさんは現在人気エコノミストとしてマスコミでも露出も多い人気エコノミストですが、その経歴は「トルコ・イスタンブール出身。16歳で国際生物学オリンピックの世界チャンピオンに。1997年に日本に留学。1年後に東京大学理科一類に合格。その後、同大学大学院で生命工学修士を取得」という方です。どこをどう突っついても頭が良さそう、という感想しか出てきませんね。

ユルマズさんは日本株に対して楽観的な見方をされている方で、本書の主張は「バブル崩壊後の「失われた30年」を経て、日本はついに黄金期に突入した!」というものです。なんか実感ないなあ、ということで本書を読んでみました。

本書で特徴的なのは、分析手法として地政学的分析を全面的に押し出しているところでしょうか。ただ、読んでいて非常に面白いことは確かなのでしょうが、果たして正しいのでしょうか。本書が出版されたのは20246月。で、今のところ本書の予想で実現されているものは少ないように思います。だって、AIバブルがはじけて、チャイナショックが世界を揺るがすはずだったんですよ。どっちもまだでしょ。ま、そのうち起きそうだけど。2025年も後半に入りましたが、あと数か月でどれくらいのところまで進むのでしょうか。私は大体においてユルマズさんの分析に賛同いたします。さあ、どうなる。

 

 

 

2025年8月

エマニュエル・トッド 大野舞訳『西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか』文芸春秋

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西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか [ エマニュエル・トッド ]
価格:2,860円(税込、送料無料) (2025/6/25時点)

「ロシアの計算によれば、そう遠くないある日、ウクライナ軍はキエフ政権とともに崩壊する」のだそうです。それでは、その他の国々はどんな状態か、というと「対米自立を失った欧州」、「知性もモラルも欠いた学歴だけのギャングが外交・軍事を司り、モノでなくドルだけを生産する米国」といった状況だとしています。では、日本は?「世界最高の知性」の一人と言われるトッドさんはどんな提言をするのでしょうか。

実は、トッドさんって日本とはゆかりがあるらしく、本書でも「日本の読者へ―――日本と西洋」なんて一文を寄せ、ロシアのウクライナ侵攻のショックから思考停止だか機能停止だかマヒ状態に陥っていた西ヨーロッパの論壇の一員であるトッドさんに発表の場を提供してくれたことに対するかなり実のある謝意を表しています。へー、そうだったの。

トッドさんは「世界最高の知性」ですからね、なるほど、と思わせる地政学的分析(特に各種人口統計を活用した分析)が随所にちりばめられています。

最近あっちの国でもこっちの国でも与党がダメージを負っているように思われます。また、某国の新しい大統領は、あそこの領土をオレによこせだとか、お前の国はオレのところに編入されるべきだとか言っています。こんな政治的動きもすべてロシアによるウクライナ侵攻と同根らしいです。何しろ「世界最高の知性」のトッドさんの言うことですから、ものすごい説得力がありますよ。

トッドさんは、新自由主義の勝利と西洋の敗北は大いに関連があると思われているようです。「新自由主義が理想とする「純粋で完全な市場」に存在するのは、道徳を欠いた人間、単なる金の亡者だけである」。私も外資系のヘッジファンドに勤めていたことがありますが、ヘッジファンドに勤めている西洋人(一部日本人も)のグリーディーさには驚かされました。その背景には本書に書かれたような諸々の事情があったんですね。なるほどね〜。

本書の「西洋の敗北」という時の西洋にはいくつかの思があります。もっとも狭義には西ヨーロッパ。それを拡大して、西洋的なイデオロギーや人種構成を受け継いだ米国その他。さらに広く見て、日本のように西洋流の発展を遂げた諸国つまり同盟国、保護国、あるいは属国だか植民地。日本人として問題になるのは、西ヨーロッパや米国あたりが没落するのはともかく、それに日本は巻き込まれるのかどうか、でしょうか。トッドさんは「西洋の敗北は、日本が「独自の存在」としての自らについて」再び考え始める機会になるはずである。さらに、日本が西洋の一部としてではなく、ネオリベラルの極西洋(アメリカ、イギリス、フランス)と「その他の世界」の仲介役として自らをとらえる機会にもなるはずだ」としています。本書執筆時から1年以上経っているはずですが、日本がそんな風に注目されているなんて話は聞こえて来ませんねえ。

 

 

泉 房穂わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』集英社新書

最近はご自身が政治評論家として人気の泉房穂さんが政治にかかわるきっかけとなったのは後に衆議院議員となる石井紘基さんの秘書となったことだそうです。衆議院議員となった石井議員はオウム真理教の被害者救済、統一教会の立ち退き運動、特殊法人への不正追及などで注目をあびる人呼んで「国会の爆弾男」でした。

石井紘基さんという方は、何と旧ソ連時代のモスクワ大学で法哲学の博士号を取得されています。もちろんソ連の体制を批判する論文では博士号なんて取れないでしょうから、「ソ連の社会主義を称賛するような博士論文を書いた」ようです。そりゃね。で、日本に帰国するのですが、日本でも愕然としたようです。「日本もソ連と同じように官僚が支配する国ではないのか」。当時のソ連と同じように「秘密主義で支配層が利益を独占し、国民は事実を知らされずに、貧しい生活を強いられている」。いまでもこんな国はあちらこちらにあるような気がしますねえ。

本書を読んで、石井紘基さんも泉さんも立派だと思います。が、日本の体たらくを政治家個々人の責任にしてしまうのはどんなもんでしょうか。「民主主義においては、人々は自分たちにふさわしい政府しか持てない」というのはフランス革命期の思想家、ジョゼフ・ド・メーストルの警句だそうです。結局問われているのは、私たちの覚悟なのではないでしょうか。皆様もぜひご一読、お考え下さい。考えさせられる一冊でした。

 

 

福山 隆兵站 重要なのに軽んじられる宿命【電子書籍】』扶桑社

本書のまえがきで、福山さんはこんな例えをしています。「陸軍の歩兵・砲兵部隊、海軍の艦隊、空軍の戦闘機部隊などの『戦闘部隊』」を桜の花とするならば、「「兵站部隊」は「桜の根」に相当する」。桜は花だけでは咲きません。このような認識は多くの軍隊の指揮官が共有するものでしょう。であるにもかかわらず、兵站を無視した無謀な作戦が企画され、実行に移されてきました。で、それらの多くは(100%ではないのかもしれませんが。「兵站は戦勝にとって『必要条件』ではあるが『十分条件』ではない」)失敗してきました。が、過ちは現在でも繰り返されています。なぜなのでしょうか。その答えの一端は本書に書かれています。ご興味のある方はどうぞ。

本書の内容にケチをつける気は全くありませんが、本書は極めて生硬な文章が続きます。福山さんは何しろ防衛大学校出身、陸将(現在の自衛隊では最上位)まで上り詰めた方ですからね。ですから本書は一般読者向けとは言いにくい仕上がりになっています。ま、そういうプロの読者に向けて書いたんだと言われればそれまでですが。

 

 

祝田 秀全ビフォーとアフターが一目でわかる 発明が変えた世界史【電子書籍】』朝日新聞出版

人類の歴史において、様々な発明がなされ、それによって“歴史が動いた”例も多々あります。本書では「時代ごとに社会に大きな影響を与えた60の発明」を採り上げ、その発明が誕生した背景を解説するとともに、その発明が人や社会にどのようなインパクトをもたらしたかを、ビジュアルに解き明かして行きます。学術的というよりは読んで楽しい、面白い一冊でした。

 

 

2025年7月

今月はジャンルに関わらず読んで面白かった本を何冊かご紹介しましょう。

 

Michel KliebensteinWheelbase: Dark Dealing in the Classic Car WorldPorter Press Book

 Wheelbase : Dark dealings in the classic car world

ある自動車雑誌の書評に、“本書はフィクションであると断りが入ってはいるが、類書の多くとは異なり本書に書かれていることは大体において事実に基づいている”、なんて評されていました。面白そうなので読んでみました。

今までお金持ち(本当の富裕層)の投資先といえば、株や債券といった有価証券、不動産、なんてところが主流でした。ところが昨今、中国やロシア、その他の新興国の富裕層が大挙してあらゆる投資運用市場になだれ込んできました。当然従来の投資運用先だけでは投資妙味のある運用先が確保できなくなりました。そこで、代替投資先(オルタナティブ投資なんて言ってるやつです)として新興国の株や債券、金に代表されるコモディティー商品、さらには芸術作品、ワイン、本書が取り扱うクラシックカー市場などに流れ込んできました。

クラシックカーなんてそんなに高いの、と思われるかもしれませんが、高いんですね、これが。特にここ数年。今のところ最高額を記録したのは、2022年に13500万ユーロ(211億円)で売れた1955年製メルセデス・ベンツ 300SLR ウーレンハウト クーペです。第2位は2025年、51155000ユーロ(約816000万円)で売れた1954年製のメルセデス・ベンツW196Rストロムリニエンワーゲン(ストリームラインのボディを架装したF1マシン)です。また、1台のクルマではありませんが、20254月には元F1界のボスであったバーニー・エクレストンの69台のF1からなるコレクションが、金額は明らかにされていませんが推定5億ポンド(約950億円)で売却されたと伝えられました(ESPN)。なかなかのもんですな。それでも、絵画作品が記録した最高額、ダ・ヴィンチ『サルバトール・ムンディ』の約45000万ドル(今だと約675億円)、第2位、 デ・クーニング『インターチェンジ』約3億ドル(今だと約450億円)、第3位セザンヌ『カード遊びをする人々』約25000万ドル(今だと約375億円)(歴代高額取引絵画ランキング・トップ2520252月現在))に比べれば多少は控えめなものですね。ではありますが、これだけの金額が動くともなれば、なんだかんだ悪い人たちも参入してくるわけです。こういった悪い人たちのお話に関しては、私も今までの書評で芸術関係(『アノニム』)、不動産(『地面師』)なんかでご紹介してきたとおりです。今回は取り扱う商品がクラシックカーになった、というわけです。こんな小説が書かれた、ってことは腕の良い詐欺師は次のブルーオーシャンを探している頃合いなんでしょうか。でも、不動産(《船井電機》上田智一前社長が悔恨告白「87億不動産詐欺で元取締役に嵌められた」)や芸術作品(高知県立美術館所蔵の絵画贋作だと判断高知県)を巡るゴタゴタは昔と変わらず起きていますので、クラシックカー市場でも大なり小なりゴタゴタは起き続けるのかもしれませんね。

この本(ペーパーバック版)の装丁で洒落ているなと思ったのは、各章の冒頭にその章に登場するクルマがシルエットで表示されていることです。なかにはクルマではないシルエットまであります。シルエットだけで何台のクルマが分かりましたか?

ところで、本書の主人公のマイクさん、本書の記述どおりなら私と同年代のはずですが、独身を謳歌、若い女性との逢瀬を楽しんでいます。うらやましい。というより、なんだかムカツクなあ。

 

 

阿部公彦事務に踊る人々』講談社

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事務に踊る人々 [ 阿部 公彦 ]
価格:2,090円(税込、送料無料) (2025/5/24時点)

私はどちらかというと事務系の仕事をメインにしてきました。

事務的な仕事というのは、英語ではclerical jobとか bureaucratic jobなんていうのかな、と思いますが、最近ではbullshit jobなんて言葉でも呼ばれているそうです。Bullshitねえ。

まあ、bullshitである側面が無いとは言いませんが、こんな仕事はbullshitだなんて声高に言い募る人は、大体において、何事につけプロセスをすっ飛ばして結果だけを求める人である、と思うのですがいかがでしょうか。事務仕事の手順が決められているのには、そのような必要性、必然性がどこかの時点で認められたからにほかなりません。もちろん、その手順が未来永劫不朽のものである保証はありません。であれば、その時点で新しい手順を定めなくてはいけません。確かに、踏襲してきた手順を見直す、なんてことは日本人が最も不得意な分野であることも確かですが、だからといって一足飛びに結果だけ求めても良いことにはなりません。

と、書いてきましたが、著者の阿部さんは東京大学大学院人文社会学研究科・文学部教授です。私の感想のごときつまらんことには微塵も関心がないようです。で、本書において何が語られているかというと、事務の歴史から古今の歴史上の人物(文学部の先生ですから作品の登場人物とか)と直接的ではないにせよ事務との関りなどなど。例えば、なんで夏目漱石は胃弱になっちゃったのか、とか。夏目漱石は英文学者・英語の教師でもありました。で、英語科の授業の改革案なんてものも、ものしてるんですって。初めて知ったわ。でも、現状の貧弱な英語教育に鑑みるに、改革案が生かされたわけではなさそうです。胃も痛くなるわな。

 

 

新庄 耕『地面師たち』集英社

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地面師たち (集英社文庫(日本)) [ 新庄 耕 ]
価格:814円(税込、送料無料) (2025/6/4時点)

以前ご紹介した『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』などを基に小説化し、映像化もされたのが本書です。本書がモデルにしたのは『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』で詳しく紹介されている、2017年に起きた被害額約55億円と言われている(最初に報道されたころは70億とも)「積水ハウス地面師詐欺事件」(Wikipedia)です。

不動産取引の登場人物の役割、法律・不動産用語などはあまり一般的にはなじみがないものです。そのため、小説の本筋とは関係はないものの、小説を展開して行くにはどうしても解説が必要な事項が数多くあるのですが、新庄さんは物語の中に織り込む形で見事にさばいています。本書を読めばあなたも地面師になれる!?

 

 

ベンジャミン・フルフォード世界革命前夜 99%の人類を奴隷にした「ハザールマフィア」の終焉/ベンジャミン・フルフォード』秀和システム

 

フルフォードさんは陰謀論の大家。なんて言うとフルフォードさんから抗議が来るかな。ま、こんな書評は読んでるわけないから大丈夫かな。

というわけで本書もバリバリ陰謀論の本。まあ、移動中とかに読むには良いんじゃないですか。でも、出張前に読むのは良くないかな。商談中に変なこと口走ったりしちゃうとまずいもんね。出張の後なら大丈夫でしょ。

本書によれば世界は革命前夜だそうです。本書が出版されたのは202311月。第二期トランプ大統領の選出はまだ先。読むのが遅れた。「アメリカ内戦、G7解体、世界再編成間近」だそうですが、それ以来特に革命ってほどのことは起きてないなあ……。第二期トランプ政権誕生が革命、なのかな。

 

 

2025年6月

阿部幸大まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』光文社

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まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書 [ 阿部幸大 ]
価格:1,980円(税込、送料無料) (2025/4/24時点)

私たち日本人は、小学校以来「作文」なんてものになじみがありますが、その際文章をどう構成し、どのように書けばよいのか、なんてことをきちんと習ってはいないものです。「本書はアカデミック・ライティングの教科書である。アカデミックな文章を書くために必要なテクニックや考え方と、それらを身につけるための具多事的なトレーニング方法を提示することが、本書の目的だ」と本書の冒頭に書いてあります。

いわゆるレポートや論文(学術的な文章)の書き方の教科書ということになります。別に本書を読んだからといって、明日から小説が書けるとか、詩が書けるようになる、なんてことはありません。

私は経済学、経営学といった比較的理数系的考え方をする学問分野で育ちましたのでそうでもありませんでしたが、日本の人文系の学問分野では、「人文系の論文のおおきな困難のひとつは、決まったフォーマットがないということである」のだそうです。

日本でも自然科学系の分野には論文のフォーマットがあります。ですから、「学術論文を書くために必要となる要素を分解してみると、その実態は実現可能な知識と技術がほとんどである。特別な才能などなくてもある程度のクオリティはでは誰でも(中略)到達できるのが、学術論文なのだ」ということになります。

ですから、会社で要求されるレベルの報告書やレポートの類なんぞ、誰だって書けるだろう、と思うのですが、私の経験から言うと、皆さん、ま、驚くほど書けない。私の業務範囲で書く文章なんて、長くても千字、短いと百字程度でしょうか。私が上司として部下の書くものを直さなくてはならない立場にいたとき、本当にまいりました。直し始めると、書き直さなくてはいけなくなってしまうのです。「てにをは」がおかしい、短くするためふたつの文章を無理やりつなげたため、主語と述語の関係がおかしくなっているなどなど。ま、私ごときが偉そうに言うことではないでしょうが。本書で取り扱うアカデミックな論文以前の問題としてまるっきりダメ。嗚呼。

論文作成に多大な参考になると思われる本書ですが、唯一の問題はアカデミックな論文執筆に興味のない方の購読意欲に響くかどうかでしょう。私もかつては論文執筆に苦労しましたので、関係がないとは思わないのですが、現在本書を読んで面白いと思ったかどうかは……。皆さんの判断をお待ちしたいと思います。

 

 

吉田 伸夫量子で読み解く生命・宇宙・時間』幻冬舎新書

「なぜガラスは透明で、金属はキラキラと輝くのか。なぜ氷はダイヤモンドよりも簡単に砕け、食塩はすぐ水に溶けるのか。物質に関する「なぜ」に答えるには、ほぼすべてのケースで量子論の知識が必要になる」んだそうです。へ〜、ということで読んでみました。

「場の量子論では、場の強度が特定の値に確定できないというものであり、「電子専用の狭い空間に場の値が波となって広がっている」という具体的なイメージで語ることが可能になる」んですって。私には何が具体的イメージなんだか全く分かりませんでした。残念。

 

 

スティーヴン・モス 宇丹貴代実訳『鳥が人類を変えた ーー世界の歴史をつくった10種類』河出書房社

本書の帯には「彼らがいなければ世界はまったく違うものになっていた」なんて書いてあります。はーっ?なんて思ったあなた、私も全く同じ感想を抱きました。で、読んでみました。でも鳥って人類の歴史を左右するほどの影響力を持ってたの?持ってたんですって。で、10の様々な観点から選ばれた人類史に対する影響力を持った鳥について紐解いて行きます。

本書採り上げられているのは、ワタリガラス、ハト、シチメンチョウ、ドードー、ダーウィンフィンチ類、グアナイウ、ユキコサギ、ハクトウワシ、スズメ、コウテイペンギンの10種。この鳥は何だ、とか、何でこんな鳥が採り上げられてるんだ、なんて思われた場合は是非本書をお読み下さい。多分あなたの知らない鳥類の奥深い話が展開されているはずです。

 

 

湊かなえC線上のアリア』朝日新聞出版

湊かなえさんの本を読むのは、2009年の本屋大賞を受賞した『告白』以来ですかね。『告白』を読んで、湊さんってのはとても上手い作家だなあと感心した覚えがあります。本作も期待を裏切らない上手さでした。

本作は朝日新聞の連載小説です。新聞の連載小説ってのは毎日少しずつ掲載されますので、その細切れを面白く読ませなくてはいけません。作家さんにとってはかなりハードルが高いと言えるでしょう。そのスタイルに馴染まない作家さんにはそもそも新聞社だって依頼しないでしょうし、作家だって依頼を受けないでしょう。つまり湊さんは上手い作家であることを自他ともに認めている作家、ということなのでしょうね。

始めのうちは介護をテーマにした小説のようですが、読み進めるうちに湊かなえワールド全開のミステリが展開していきます。本書は「担い手となった女性たちの心の声が響く介護ミステリ」だって帯に書いてありました。期待を裏切らない面白さでしたよ。ぜひご一読を。

 

 

2025年5月

歴史の謎を探る会教養として知っておきたい聖書の名場面KAWADE夢文庫

西洋の絵画、彫刻、小説、映画のモチーフとして、聖書の物語が使われる場合が多くあります。ですが、聖書になじみのない私たち日本人がそれらに接する場合、聖書の知識を欠くため作者の意図が今一つ分かり難く、その作品を今一つ楽しめない場合があります。ということで、こんな本を読んで聖書の知識をアップデートしておくとしましょう。ま、本書は学術書ではありませんので、旅行の際の暇つぶしの一冊としてどうでしょうか。私は本書を駅の近くの本屋さんで買いました。本書の帯に「役に立っても!立たなくても!!おもしろ知識はここにある!」と書いてあります。気軽に楽しむことにしましょう。

西洋の有名な絵画が聖書にヒントを得ていると聞いても驚きませんが、日本の漫画だとかアニメも元々のモチーフの出所を辿ると聖書に行きつく、なんて解釈には結構驚かされるものがあります。暇つぶしをしながら、結構驚かされるところがありますよ。

 

 

東 茂由治療法の世界史KAWADE夢文庫

「役に立っても!立たなくても!!おもしろ知識はここにある!」ということで読んでみた2冊目。

「壊疽した脚を瞬時に切断する。痔の治療のために肛門に焼きごてを当てる、虫歯の治療は、力まかせに抜歯する、白内障の治療では、麻酔をかけていない目に鍼を突き刺す」、書き写しているだけでも痛そうですが、どれも実際に行われていた治療だそうです。今じゃ即医療訴訟だなきっと。ではありますが、その当時は医療を行う側だけではなく、患者側も今では無茶苦茶と思える施術に積極的、ではないにしても暗黙の承諾を与えていたのだと思います。

いまでは妥当だと思われている施術だって、将来は医学技術が発達して、“科学の発展していない時代にはこんなとんでもない手術が行われていた”、なんて言われないとも限りません。患者としても何を信じるか、はよくよく考えて覚悟を決めないといけないみたいですね。

 

 

原田 実捏造の日本史: 偽史をつくったのは誰か?なぜ信じられたのか?KAWADE夢文庫

「役に立っても!立たなくても!!おもしろ知識はここにある!」ということで読んでみた3冊目。ま、これくらいあれば、旅のお供、暇つぶしとしては十分なんじゃないでしょうか。

捏造・偽造といっても、その内実は様々なようです。元々は講談や歌舞伎などフィクションだったものが事実として定着してしまったもの、すでに誤りであったことが判明している学説にも関わらず、世間では旧説が上書きされないまま定着している、など様々な原因があるようです。

本書を読んで気付くのは、新しい学説を頑迷に拒絶する学会、ではなく、逆に学会で明快な考証に基づき学術的に否定された学説に頑迷にしがみつく在野の学者がいることです。

ちなみに、著者の原田さんは一時期話題になった“江戸しぐさ”の根拠のいい加減さを明らかにした『【中古】 江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』なんて本も書かれています。世の中には多種多様な言説が溢れています。トンデモ説かどうかを見分けるのは私たち、試されているのは私たち自身のようです。

 

 

浜竹 睦子自家製はエンタメだ。』サンクチュアリ出版

浜竹さんの本職はイラストレーター。ですから絵を描くプロなわけですが、誰だって料理を作ったりします。で、買い物に行ったり、外食をしたりしたとき、ふと気づいてしまったみたいです。“これって、自分でも作れるんじゃね”って。で企画されたのが本書みたいです。もちろんいろんなものを浜竹さんご本人が作るわけですが、その道のプロにちゃんと教えてもらっています。うーん、うらやましいぐらい贅沢な企画!ちゃんとご家庭で作れるようレシピも工夫されているようです。

面白いのは、本書の最初の方に「季節のカレンダー」という自家製のスケジュールが載っているところ。確かに、梅の実が手に入らない季節に“さあ梅酒を作ってみましょう”なんて言われても困りますからね。

浜竹さんはイラストレーターですから、レシピにはご本人の描いたイラスト入りです。写真よりよほど分かり易いと思います。あと、様々な疑問(素人が疑問に思いそうなやつ)についてもイラスト+文章で答えてくれていますよ。

さ、本書を読んで何か作ってみましょう。

 

 

 

2025年4月

宮下 洋一安楽死を遂げた日本人』小学館

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安楽死を遂げた日本人 [ 宮下 洋一 ]
価格:913円(税込、送料無料) (2025/2/24時点)

日本では「死」をめぐる議論は非常に低調です。タブーと言っても良いのかもしれません。「縁起でもない」、「そんなことは口にするもんじゃない」などが普通の反応ではないでしょう。でも、口にしなかったからと言っても、人間、いつかは死ぬんです。本書でも「医師から余命を宣告され、初めて死と正面から向き合うのが日本人である」なんて書かれています。遅いって。

ということで、私は子どもたちにも、むやみな延命治療は止めてくれ、その代わり、緩和治療だけはよろしく、と言ってあります。ただし、このような方法も日本では「安楽死」の範疇に入れられていますが、これは「現行の医療制度でも実現できる」「延命治療の手控えや中止」(いわゆる尊厳死)に含まれるようです。ここら辺のことも本書では結構詳しく触れられています。

本書の前半で詳しく取り上げているのはより積極的に死を選ぶ方法です。宮下さんも簡単にこれが正解、などと主張している訳ではないようです。皆様はどのようにお考えになりますか?少なくとも、考えてみる、ことから出発しようではありませんか。

 

 

リック・ストラスマン 東川恭子訳『DMT-精神(スピリット)の分子ー 臨死と神秘体験の生物学についての革命的な研究』ナチュラルスピリット

著者のストラスマンさんは1952年ロサンゼルス生まれ。いわゆるフラワー・ムーブメント真只中の青春時代を送ったわけですね。現在は開業されているようですが、以前は精神医学の大学教授でした。もともと「松果体ホルモン、メラトニンの機能に関する臨床研究に従事した」とのことですので、脳内化学物質の研究を専門にされていたようですが、「幻覚剤研究を米国で20年ぶりに再会させた」なんて記述を読むと、なるほど昔の……なんて思っちゃいますね。もっともストラスマンさんは若いころから禅仏教の修行を積まれていたそうですから、DMTなどサイケデリック・ドラッグへの興味も、ラリッちゃうことが目的ではなく、「人々の暮らしに生かすことを模索した」ものなのだそうです。心してお読みくださいね。

本書の主役DMTN,N-ジメチルトリプタミン)という化学物質そのものは、アマゾン植物のサイコトリア・ビリディスの葉に含まれる天然物質で、古くから体験者に幻覚や知覚、感情、認識の変化をもたらすアヤワスカ飲料に使用されてきました。古くから知られていたわけですね。また、人間の脳内でも生成されることが知られています(「実のところ、DMTがどこにあるか、という議論ではなく、どこにないかを調査すべきところに来ている」)。歴史的には人類は随分と前から幻覚剤(サイケデリック)を使っていたみたいですよ。ではありますが、DMTは、向精神薬に関する国際条約により1971年に世界的に禁止された精神活性アルカロイド物質に分類され、アヤワスカという煎じ薬飲料の中で宗教的、儀式的にのみその消費が許されているそうです。何たって麻薬の一種ですからね、現在の警察とか司法権力とは(その他順法精神に富んだ組織とも)相性がよくないみたいです。アヤワスカとは何か、なんてことは以前ご紹介した『Quantum Science of Psychedelicsでも採り上げられていました。ご興味のある方はどうぞ。

DMTで興味深いのは、DMTは「私たちの意識を実に驚異的な、予想もしなかったビジョンや考え、感情にアクセスさせてくれる。それは私たちの想像を超える世界へ至る扉をパッと開け放つ」ように思えることです。ストラスマンさんは禅仏教にも親しんでいるようですが、DMTの経験は瞑想時の体験に大変似ているように思えます。ストラスマンさんは「自分のキャリアをかけて幻覚剤研究を再開しようと決断した動機の一つに、高用量の幻覚剤体験と、神秘体験の類似性が挙げられる」としています。また、「宇宙人による誘拐」体験談なんかとの類似も指摘しています。DMTは本当に私たちに神秘体験をもたらしてくれるのでしょうか、それとも単にラリッているだけなのでしょうか。あるいは単にラリッているのと神秘体験とか瞑想、変性意識なんてものに差は無いのでしょうか。

本書には臨死体験に似たDMT体験も記載されています。実は私も脳出血で入院中、隣死体験なのか三途の川の近所(多分)まで行ってしまったことがあります。そのときタイミング良く看護師さんが声をかけて起こしてくれなければ三途の川を渡っていたのかもしれません。あれは神秘体験だったのでしょうか、それとも脳内麻薬でラリッているだけだったのでしょうか。

ストラスマンさんも実際は豊富なトリップ体験があるように思えますが、政治的配慮もあるのでしょうが、ストラスマンさんの個人的経験に関しては本書では慎重に記述が避けられています。そこらへんにもいささか残念感が残りました。

DMT研究の顛末は本書にも詳しく書かれているように、再び停止、もしくは停滞状態(最近また「サイケデリック・ルネサンス」が起きつつあるそうですが)にあるようです。果たして幻覚剤(DMT)は私たち人類が新たなステージに到達するブレークスルーの一助となるのでしょうか、それとも単にヤバいドラッグなのでしょうか。

 

 

森 功地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』講談者文庫

映像化された『地面師たちの参考文献に取り上げられた一冊である本書はノンフィクション作家の森功さんが過去の不動産詐欺事件を取材した一冊です。

まあそれにしてもいろいろな手口があるもんですね。やはり、資産がある場合にはきちんと管理しておかなくてはいけない、ということになるんでしょうね。まあ、地面師に目を付けられるような資産は持ってないから関係ないのかもしれませんが。

 

三橋 貴明『財政破綻論の嘘 99%の日本人を貧乏にした国家的詐欺のカラクリ』経営科学出版

「文藝春秋」20219月号に現役の財務省事務次官の矢野康治氏が書いた、「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」という論文が掲載れました。矢野次官は文字通り、「このままでは財政破綻する」と主張しています。三橋さんは「矢野氏が「国家には無尽蔵にお金がある」ことを否定している時点で、氏が「貨幣」について何も理解していないことが明々白々である」とけちょんけちょんに批判しています。なぜそうなのか、は本書をお読みくださいね。

 

 

2025年3月

林 綾野モネ 庭とレシピ』講談社

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モネ 庭とレシピ [ 林 綾野 ]
価格:1,760円(税込、送料無料) (2025/1/24時点)

上野の西洋美術館にモネ展『モネ 睡蓮のとき』を見に行った際に購入しました。若い時、売れない画家であったモネは自殺を考えることもあったほど困窮していましたが、40歳を超えジヴェルニーに移住したころには「フランス内外で作品も売れはじめ、ようやく生活が出来るようになり、自身の趣味を追求」できるようになりました。で、出来たのが睡蓮で有名なジヴェルニーの庭、ということになります。また、モネは「日々の「食事」にもこだわりを持っていた」そうでです。

ジヴェルニー移住の前に最初の妻カミーユを亡くしていたモネにとって、妻の代わりに家の切り盛りをしてくれたのがアリス・オシュデです。このアリスさんが料理上手だったようです。「友人たちの間でも美食の定評があった」なんて書いてあります。モネ自身気に入ったレシピを書き残したレシピ・ノートを6冊も残しているそうですから相性は良かったのでしょうね。ジヴェルニー移住(1883年)からしばらくして(1892年)正式に結婚しています。ここら辺の複雑な事情は原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』をお読みください。

本書にはモネのノートから復元したレシピで、「日本のキッチンでも調理可能な」料理がいくつも掲載されています。さて、どれが美味しそうかな。

 

 

にしうら 染フランスふらふら一人旅 モネの足跡をたどる旅』だいわ文庫

にしうらさんの『フランスふらふら一人旅』につづく旅シリーズ。今回はモネに焦点を絞っています。にしうらさんが旅をしてあらためて認識したのは「ああ、モネが描いた風景は存在するんだ」ということ。実際の風景に比べると、脆弱そうに思える絵画作品とかの方がまだ寿命が長いかもしれません。

モネの見た情景をそのまま追体験できる時間はどれくらい残されているのでしょうか。行くなら、今でしょ!!旅慣れていない(!?)にしうらさんが懇切丁寧に旅のあれこれを教えてくれますよ。

 

 

ピーター・J・マクミラン謎とき百人一首 和歌から見える日本文化のふしぎ』新潮選書

マクミランさんはアイルランド生まれ。英文学で博士号を取得の後、英文学と哲学を教えるために1年の予定で来日したそうです。が、以来30年以上日本に滞在、百人一首や伊勢物語の英訳を出版、米国で2008年度ドナルド・キーン日本文化センター日本文学翻訳特別賞、国内では2008年度日本翻訳家協会第44回日本翻訳文化特別賞を受賞されているそうです。ご自分では「日本古典文学の翻訳家であり、研究者ではありません」とのことですが、本書、「日本文化に出会い直せる「最良の入門書」」なんて紹介されています。まあ、平安時代の和歌なんて、現代の日本人にしてみたら外国語よりなじみがない場合があります。マクミランさんはそんな歌を、その背景、意味を踏まえ、英語話者にも分かるように技巧を凝らして翻訳(百人一首の歌には主語が書かれておらず、複数の意味にとれる歌があります。歌の場合は意図的にそのような書き方をしていると思われます。ですが、動作なりの主体が分からない文章は英語ではほぼあり得ません。さあ、どうする?)、さらに懇切丁寧な解説も加えていますので、日本人であるとはいえ日本古典文学にはとんと縁のない私にもよく分かる説明になっています。マクミランさんの英訳、現代語訳が百人一首の各歌に示されていますが、歌によっては英訳の方が現代日本語訳より分かり易かったりします。あれま。

マクミランさんが京都のお宅に日本庭園を造ろうとしたときのエピソードが載っていました。万葉集その他のいにしえの和歌に詠まれたような草花を植えようとしたのだそうですが、その一角にチューリップなど西洋の花も一緒に植えようとしたところ、「今は庭を作っているんだ!ガーデニングをしてるんじゃない」と𠮟られてしまったそうです。京都の人ってのは(いや、庭造りがでしょうか)難しいもんですね。

ま、とにかく、なかなか面白かったですよ。

 

 

ジェフリー・アーチャー 戸田浩之訳『狙われた英国の薔薇 ロンドン警視庁王室警護本部 [ ジェフリー・アーチャー ]』ハーバーBOOKS

ジェフリー・アーチャーさんの新作です。

アーチャーさんは本人の人生が波乱万丈そのものです。若くして英国下院議員になるも巨額詐欺事件に巻き込まれて議員はクビ(不出馬)に追い込まれ、巨額の借金まで背負わされたみたいです。が、詐欺事件を題材に『百万ドルをとり返せ』を上梓、ベストセラー作家に。めでたく借金も完済、政界復帰も果たします。その後一代貴族に叙せられ貴族院議員にもなりました。その後も色々あるみたいですが、ご興味のある方はWikipediaでもご覧ください。

本書はそんなアーチャーさんがロンドン警視庁王室警護本部といういかにもイギリス的な部署を題材に書いたシリーズの最新作です。文句なしに面白かったですよ。亡きダイアナ妃も(故マーガレット・サッチャー首相も)大変重要な役割で登場します。

たっぷりこってりと(英国風クロテッドクリームみたいに)英国趣味のあれこれを満喫できますよ。

 

 

2025年2月

山崎 良平天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100』日経BP

テスラCEOのイーロン・マスク、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ──。いずれもイノベーションを起こして「フォーブス」世界長者番付1位になった天才です。実は猛烈な読書家でもある3人が読んだ100冊の本が一挙に紹介されています。

大変な読書家でもある3人が読んだ100冊の本を一挙に紹介している訳ですが、実際にこの3人に頼んで100冊の本を選んでもらった、という訳ではありません。様々なメディアなどでこの3人がコメントしている本の中から、日本語訳があるものを抽出、そこから100冊選んだ、ということのようです。ではありますが、著者の山崎さんはこの100冊プラス選ばれなかった本多数に実際に目を通され、解説も加えています。読むだけでも大変な労力ですな、とても自分でやろうとは思いません。ということで、本書を読んで帳尻を合わせることにしましょう。

紹介されている本のジャンルは経営学、歴史からフィクションまで多岐にわたりますので、あなたもきっと読んでみたくなる一冊を見つけられると思いますよ。

 

 

マット・ルメイ 吉羽龍太郎・永瀬美穂・原田騎郎・有野雅士訳 『みんなでアジャイル 変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた / 原タイトル:Agile for Everybody』オライリー・ジャパン

アジャイルと言う言葉は必ずしも人口に膾炙しているとは言い難い言葉ですが、アジャイルの名詞形のアジリティ(agility、敏捷・機敏)には多少の耳馴染みがあるのではないでしょうか。アジャイルという言葉はソフトウェアの開発現場から広まった言葉のようですが、「ウェブサービスやスマートフォンアプリケーションに対して、小さい改善を繰り返すことで、使われるプロダクトを作り上げていく」手法だそうです。日本人は得意……かもしれません。

本書のまえがきを書いている及川卓也さんは、アジャイル手法はあくまでも武道やスポーツにおける「型」であり、「型」を習ったからと言って、それだけで武道なりスポーツなりが上手くなるわけではない、と警鐘を鳴らしています。そりゃそうですよね。ただ、世の中にはゴルフの“教え魔”のように、「型」を知っただけでそのスポーツなりをマスターしたように勘違いしている人が多いそうです。これも、そうでしょうね。

本書では「手法としてのアジャイル」と「マインドセットとしてのアジャイル」を分けて分かり易く解説しています。本書を読めば、そんなアジャイルの本質が分かる……、あるいはヒントがつかめるかもしれませんよ。

 

 

三橋貴明【中古】 竹中平蔵教授の 反日 経済学』経営科学出版

書名を一瞥しただけで著書の三橋さんの言わんとすることが分かりますね。

バブル崩壊を機に日本経済はデフレのドツボにはまり、低成長(というか無成長)の失われた30年(現在絶賛記録更新中)になります。ドツボ。で、なんでこうなったのか、というと、同期間中の代表的経済的政策である構造改革と財政緊縮政策が元凶である、というのが三橋さんの見立てです。

世界経済のネタ帳

上記グラフが同期間中の通信簿です。理論的にどうのこうのではなく、実績として全くダメであったことが分かります。日本人の悪い癖として計画を立てるときにはああだこうだと議論する割には実績を検証する、という習慣がないことが挙げられます。で、実績を比べてみるとこうです。ダメだこりゃ。

日本にデフレ型経済政策を強いているのは、「プライマリーバランス黒字化目標、平均概念の潜在GDP、そして発展途上国型マクロ経済モデルというシミュレーションモデルなのである」と三橋さんは指摘しています。で、「日本のデフレ継続と中国の「属国化」をもたらす三つの目標と指標、シミュレーションモデルは、ある人物により導入された。その人物の名は、竹中平蔵という」だそうです。

あなたは竹中教授と三橋さんのどちらに軍配を上げますか?ぜひ本書をお読みになってお考え下さい。

 

 

小谷 太郎物理の4大定数 宇宙を支配するc、G、e、h』幻冬舎新書

「物理定数は日常から宇宙の彼方までのあらゆる現象を支配する法則が、数値となって現れたものです」。あ、そう。「この4個の物理定数を理解するには、相対性理論から素粒子物理学まで、人類がこえまで得た宇宙についての知識が全部必要です」。ムリだ。

それぞれの意味は、cは光速、Gは重力定数、eは電子の電荷の大きさ、hはプランク定数を意味します。ご興味のあある方はWikipedia 宇宙定数などをご参照下さい。

「相対性理論、宇宙の構造、素粒子や量子力学までわかる画期的な書!」だそうです。分かる人には分かるんでしょう。私には……分かんなかった。

 

 

2025年1月

鈴木 貴博日本経済復活の書 2040年、世界一になる未来を予言するPHPビジネス新書

本書の副題は「2040年、世界一になる未来を予言する」というものです。まあ、その時私は80歳ですので、あまり関係はなさそうですが、子供世代には影響しますよね。

鈴木さんの経歴は東大−ボストンコンサルティンググループ−独立、というピカピカのエリートの方のようです。専門は未来予測とイノベーション戦略。

で、鈴木さんが日本の未来を予測するわけですが、人口の減少も予測される日本、このままでは現状維持すら難しいようです。ではありますが、それをそのまま受け入れてしまっては有能なコンサルタントとしては実も蓋もありません。で、鈴木さんは「これまで30年間、日本経済が地盤低下を続けてきたのは本当にやるべきことをせずに、決めやすいことしか決めてこなかったからだ」という不都合な真実を前提に大胆な提言をぶち上げます。で、ぶち上げたのが「日本経済の魔改造」です。魔改造って、若者向けのクルマ雑誌なんかで目にするコトバです。どんなのかって言うと、軽自動車にでかいアメ車のV8エンジンをぶっこんじゃう、みたいな感じがあります……。私の個人的感じですよ、もちろん。で、鈴木さんがどんな魔改造を意図しているか、は本書をお読みくださいね。

果たして鈴木さんが主張する通り「数字でマイナス×マイナスがプラスになるように、受け入れがたいマイナスの未来が二つ重なることで、絶望の先に希望が見えてくる」のでしょうか。

はてさて、「ときめく」魔改造って現実化するのでしょうか。そもそもあなたは魔改造を現実化させたいでしょうか。あなたはどちらですか。

 

 

植草 一秀『千載一遇の金融大波乱』ビジネス社

本書は2023年の1月に出版されています。ですから書かれたの2022年ということになると思います。で、2023年が過ぎ、この書評を書いているのが20247月。日経平均のチャートを見ると、一本調子とは言いませんが、そのころから大きな下落もなく上昇しています。こんな相場、私は全く予想していませんでした。植草さんも……。ま、後からだったら何とでも言えるわな。

ということですが、植草さんが本書で指摘している問題は何一つ解決されたとは言い難い状況です。そしてその結果起こるであろう予想図は、今現在でも有効な示唆を与えてくれるものと思います。

私は現在の世界的な株高は中銀バブル(コロナ禍を契機として主要各国において低金利政策(及び過剰流動性の供給)が採られた)によって人為的に演出された相場だと思っています。そうであれば……。そうですよね植草さん?

本書を株式投資の推奨銘柄リストとして使おうと思っておられる方には向かないと思いますが、今後の日本経済の俯瞰図としては役立つ視点を提供してくれるものと思いますよ。植草さんの挙げるリスクは3つ。「第3次世界大戦勃発のリスク、世界恐慌発生のリスク、そして中国大波乱のリスク」です。2023年には起こらなかったわけですが、火種は今現在でもくすぶっています。何しろ植草さんは「戦争は必然によって生じるものではなく、必要によって創作されるもの」なんて指摘しておられます。戦争でさえそうなら……。2024年の後半、2025年以降はどうなるのでしょう。

千載一遇のチャンスは、いつ来るのでしょうか?いつ、と正確には答えられませんが、備えておくことはできます。備えておかなくっちゃ。

 

 

名和高司資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター』日経BP

著者の名和さんは東大卒業、三菱商事入社の後、ハーバード・ビジネス・スクールで修士号取得、マッキンゼー入社、ディレクタ−としてコンサルティングに従事、と私なんぞとはラベルの違うビカビカのエリートの方のようです。

本書の帯には「本物の経済学とはなにかを知れ」と大きく書かれ、経済学にはイノベーションとルビが振ってあります。ま、これが名和さんの言いたいことなんでしょうね。

でも、シュンペーターの原著って「理屈っぽくて読みづらく、しかも分厚い」んだそうです。そんなシュンペーターの主著3冊を名和さんが読み解いてくれています。ま、そういうことですので、本物の経済学を知るために本書を紐解いてみることにしました。ビカビカのエリートの名和さんが言うんだから間違いない!?

ところで、名和さんはシュンペーターが資本主義の終焉を予想していたこと、破壊的な革命を否定していた(だからレボリューション(革命的破壊)ではなくイノべーション(創造的破壊)なんでしょう)ことなども指摘しています。それだけではなく、シュンペーターは「どうしたらいいのかの答えも出しているのです」だそうですよ。そうだったの‼ここから先は本書をお読みくださいね。

 

 

眞邊 明人もしも徳川家康が総理大臣になったら』サンマーク出版

眞邊さんは「家康は意図的に 当時の“領土を拡大して成長する”ことを止めた、世界でもまれに見る異質のリーダーであった」としています。「結果、江戸時代は265年間も続く、太平の時代になった」のです。確かに。

で、ここからが本書のお話。パンデミックでパニックになった現代日本政府は、「AIと最新ホログラム技術で偉人たちを復活させ、最強内閣を作る」のです。総理大臣には徳川家康、官房長官には坂本竜馬、財務大臣には豊臣秀吉、産業経済大臣には織田信長、文部科学大臣には菅原道真などなど日本史に名を遺す偉人たちに、させます。で、その結果……。最近実写映画化されたコメディーです。

著者の眞邊さんは、「吉本興業において、新規事業を手掛け事業の成長を導き独立。作家として活動しながら、エンタテイメント事業、教育事業を推進している」という方です。で、その講演のテーマは「徳川家康、徳川綱吉、田沼意次といった歴史上の人物の実績を基に、現代のビジネス上の課題を解決する方法を示唆します」なんて紹介されてます(ノビテクビジネスタレント)。本書はそのものずばり、を小説家したものでしょう。

本書、政治パロディーものの本かともおもいますが、眞邊さんの経歴からもわかる通り、立派なビジネス書としての内容を持っています。コンピュータに政治を任せることについての作中人物の会話に「それでも生身の政治家よりはいいんじゃない」というのがでてきます。立派な政治風刺にもなっているようです。

 

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