2026年11月 

恩田 陸『MAZE 新装版』双葉社

魅惑のウイルスを求め、世界中を飛び回る凄腕ウイルスハンター・神原恵弥シリーズ第1弾。

アジアの西の果て、荒野に立つ直方体の白い建物。中には延々と続く通路。題名のMAZE(迷路)そのものですね。で、その迷路には……。あとは本書をお読み下さいね。

本書の主人公神原恵弥は女性言葉をしゃしゃべるキャラクターとして描かれています。ふつう小説ではそのような設定はしないものです。それは当然でしょう。日本語の小説表現では、男言葉と女言葉を使い分けることによって男女の登場人物を描き分けるのが当然の表現方法です。女言葉をしゃべる男、なんて無駄に複雑な主人公は普通は避けるものでしょう。本書では恩田さんが「古くは公家など皇紀は人物は女言葉を話していた」なんて豆知識をはさみながら、さすがの筆力で神原の一風変わったキャラクターに説得力を持たせています。

 

 

恩田 陸『クレオパトラの夢』双葉社

魅惑のウイルスを求め、世界中を飛び回る凄腕ウイルスハンター・神原恵弥シリーズ第2弾。

神原恵弥は「北国のH市を訪れた」目的は「不倫中の双子の妹を連れ戻すためだが、もう一つ重大な目的があった。それはH市と関係があるらしい「クレオパトラ」と呼ばれるものの正体を掴むこと」

かなりミステリアスな始まり方をする本書、一つ間違うと訳が分からなくなってしまいそうですが、そこは恩田陸さんのさすがの筆力で読ませます。面白い一冊でした。

 

 

恩田 陸『ブラック・ベルベット』双葉社

 

ブラック・ベルベット [ 恩田 陸 ]

魅惑のウイルスを求め、世界中を飛び回る凄腕ウイルスハンター・神原恵弥シリーズ第3弾。

彼がこの度訪れたのは、東西文化の交差点であるT共和国、ってどう考えてもトルコだよな。イスタンブールって書いてあるし……。

それはともかく、本シリーズでは神原恵弥は日本、海外と実によく旅をしています。で、本文中にさりげなく旅知識がちりばめられています。きっと恩田さんご本人が取材されているのでしょうね。その割にすごい執筆数。大したもんですな。

 

恩田 陸『傾斜のマリア/恩田陸』双葉社

【最大10万Pt当たる!注文5千円以上&エントリー要 9/20~30限定】傾斜のマリア/恩田陸

魅惑のウイルスを求め、世界中を飛び回る凄腕ウイルスハンター・神原恵弥シリーズ第4弾。

「光の下の人間の営み。その営みは、ほんのちょっとしたすれ違いで歪みはじめる」なんて書いてありました。恩田作品はいわゆる本格的ミステリとはいささか異なったところが魅力のようです。私はそんな風変わりなところが好きですね。

ところで、神原恵弥シリーズ第一作『MAZE』が出版されたのが2001年。なんと四半世紀も前です。登場人物がその通りに年を取らないのはしょうがない(それでも多少は年を取った描写もあります)でしょうが、作者本人はそうはいかないはずです。それにしては恩田さんの創作意欲はすごい。このシリーズ以外にも数多くの著作を上梓しています。感服。

 

 

2026年10月 

オフィステイクオー『古今東西トンデモな法律』KAWADE夢文庫

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古今東西トンデモな法律 (KAWADE夢文庫)
価格:792円(税込、送料無料) (2026/8/24時点)

歴史を振り返ると、トンデモな法律というものは結構あったようです。が、そんなトンデモな法律にも制定された背景が必ずあります。法律というものは人間が作ったものですからね。勝手に法律が生えてくる、なんてことはありません。ただ、法律は人間が作ったものですから、あらゆる配慮が行き届いている、なんてことはなくて穴や法律制定時には想定していなかったことが起き、あるいは誤った運用、悪意を持った運用がなされ、それが思いもよらない悲劇をもたらすことがあるようです。人間というものは、まだそこまで完璧ではないようですね。トンデモな法律が制定されるのは何も昔のことではなく、今だって起こっているのではないでしょうか。

最近も、日の丸を切り刻むところをライブ配信をすると法律違反になるが、その様子を録画して配信した場合は違反とならない……、なんて訳の分からない法律も成立しました。大丈夫かねこの国は。

 

 

森 功『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』講談社

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地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い [ 森 功 ]
価格:1,980円(税込、送料無料) (2026/8/24時点)

ネットドラマが大ヒットした『地面師たち』、そのノベライズ本『地面師たち』は本書評でも採り上げげさせていただきました。この本の中で山本拓海という名で登場する主犯格の男が(本名カミンスカス操)、本書の著者森功さんに「前略 森功殿 私はセキスイ地面師事件で主犯格にされたカミンスカスです。森さんはこの事件に関してかなり詳しい人だと思います。森さんは私をどう思っていますか? ハッキリ言います。私は無罪です」という手紙が届きました。森さんは『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』というドラマの種本になった本の著者です。その森さんに裁判で事件の首謀者とされた人物からオレは嵌められた、という手紙が来たわけです。事実は小説より奇なり、なのか、詐欺師なんて息を吐くようにうそを吐く、のでしょうか。

 

 

上杉 隆『五輪カルテル』扶桑社

五輪カルテル [ 上杉隆 ]

京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件は、2023年7月時点で総勢15人が起訴され、うち10人に有罪判決が言い渡されています。「戦後最大の汚職事件」であったといえるでしょう。ただ、本件が取りざたされるようになったころ、「眠れる検察が数百億円規模に及ぶ五輪の巨大利権に手を突っ込んでいくとは思えなかったのも正直なところだ」なんて思っていたそうです。果たして五輪疑惑は一掃されたのでしょうか。

表題になっている五輪カルテルですが、上杉さんの見立てによれば、私たちが普通に想像するよりもはるかに広く、かつ深いものであったようです。そのような闇を、たとえ検察といえども暴き出すことは容易ではないはずです。実際、本書によれば暴かれなかった闇があったようです。

巨悪を眠らせない、というのは検察(特捜)のスローガンであるかのようにいわれています。しかし、今の日本では、巨悪は今日も枕を高くして眠っている、ような気がしますがどんなものでしょうか。

 

 

帚木 蓬生『ギャンブル脳』新潮社

ギャンブル脳 (新潮新書) [ 帚木 蓬生 ]

IRだとか何とか、日本でもカジノの導入を目指したあれこれが進んでいます。その一方で、カジノには反対の声もあるようです。ギャンブル中毒が懸念されるとか。でも、肝心のギャンブル中毒に関してはあまり情報がありません。帚木さんは現役の精神科医にして作家。当初票でも以前『蝿の帝国』『蛍の航跡』をご紹介しました。本書の経歴紹介には「医師として35年以上、ギャンブル症(本書では通常使われるギャンブル依存症に代えてギャンブル症が使われています)の治療に取り組んできた」とありますから、本書はテキストとして好適でしょう。

現在、日本にはギャンブル症に有病率が2.2%、人口換算すると196万人もいると厚生労働省から発表されているそうです。最近の報道で有名なのは米大リーグの大谷翔平選手の元通訳の事件でしょう。違法なスポーツ賭博に手を出し、勝ちは218億円、負けは280億円だそうです。依存症なのでしょう。ただ、「その依存の度合い、嗜癖の強度は、薬物依存や危険ドラッグ、アルコール依存よりも強いのです」なのだそうです。薬物はもとより、アルコールが禁止されている(宗教上、あるいはかつての米国のように)国もありますが、ギャンブルが全面的に禁止されている国というのは、私は知りません。何ででしょうかね。

ところで、本書を読んで非常に気になったのは、「ギャンブル脳」の出来上がり方というのは、「SNS中毒」なんてのに非常に似通っている気がすることです。薬物やアルコールといった外部的な刺激によるのではなく、「脳自体が、ギャンブルという、強烈な刺激を伴う反復行為によって変化してしまう」からなのだそうです。ギャンブルによる刺激をSNSにおける成功体験(バズッたとか)に置き換えると、うまく文脈が通ずるような気がしますがいかがでしょうか。「ゲーム脳からギャンブル脳へは、オンラインが主流になってしまった今日、もはや地続きとなってしまっています」。そして、もしそれが成り立つのであれば、早急に手を打たなくてはいけない事態になるような気がします。実際にSNSに厳しい年齢制限を設けた例が諸外国にも現れています。皆様はいかが思われますか?

「日本が世界に冠たるギャンブル王国であるという事実は、政府もひた隠しにしています」なのです。何しろパチンコ・パチスロはギャンブルではなく単なる遊技台ですって言ってるくらいですから。そんな日本にカジノなんて作らない方が良いんじゃないって思うんですがどうでしょうか。

 

 

2026年9月 

白井 啓祐著 三ツ矢 彰画『会計が面白いほどわかるミステリ 決算書に隠された7つの罪』KADOKAWA

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【送料無料】会計が面白いほどわかるミステリ 決算書に隠された7つの罪/白井敬祐/三ツ矢彰
価格:1,980円(税込、送料無料) (2026/7/24時点)

業績好調のはずだったとある大手企業が突然大赤字を計上しました。そしてそのことに絡んで死者まで出ます。これはいったい……ということで始まる会計ミステリです。

「数字は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつも人間だ」をキーワードに会社の闇を暴いてゆくミステリ、なんですが、まずマンガで物語をはじめ、会計に関するクイズを出題、解説して行く、というスタイルの本です。これだと、小難しい会計原則とかもすんなりと頭に入ってくる、かもしれませんよ。

 

中野 剛志『【中古】新装版『国力論 経済ナショナリズムの系譜 』』経営科学出版

【中古】新装版『国力論 経済ナショナリズムの系譜 』(単行本(ソフトカバー))

現代経済学の経済理論において「その経済理論の中にはネイションという分析概念が見当たらない」と中野さんは指摘しています。「近代国家の政策は、国民すなわちネイションのために遂行されるものとなる」。そうであるならば、現代経済学の二大潮流、「経済自由主義とマルクス主義のいずれにおいても、ナショナリズムに対して否定的な姿勢を見せている」のはおかしいじゃないか、というわけです。まあ、これには経済学の出自に帰せられる問題が関わっているようです。科学の分野、例えば、物理学や数学においては、ナショナリズムなんてものが入り込む余地はありません。ま、一応。それに対して、人文科学分野では逆に純粋科学のような論理性は求めようがありません。であるはずなのですが、ある時、一部の経済学者たちが、「オラたちも物理学や数学みたいなカッコイイ証明や理論が欲しい‼」ってなって現代経済学が生まれてきた、なんて経緯があります。だもんで「経済学は科学だ‼」ってカッコつけちゃって、経済学の分析からネイションなんてものが省かれちゃったんですね。社会科学分野の政治学なんかからネイションなんてものを省いたら国際政治の分析なんて絶対に成立しないでしょうからね。政治のお隣の分野である経済においても同様のはずなんじゃないの、とも思うのですが、皆様はどう思われますか?

このネイションの重要性を検証する好例として19世紀のイギリスとその対比としてイタリアとドイツが取り上げられています。当時のイタリアが「一つ足りなかったのが、当時イングランドがなったような状態になる能力であり、その一点が欠けていたがために、他の繁栄のための条件がすべてイタリアの手からすり抜けていってしまった」としています。その条件とは国家統一。同じことは当時統一国家を持たなかったドイツにも当てはまります。経済の発展のためにもネイションなんてものが重要な役割を果たしているではないか、というわけです。なるほどね。

本書において中野さんは従来の経済学は経済ナショナリズムの観点から読み直すことが可能であることを明らかにしてゆきます。果たして皆さんは中野さんの主張に共感されますでしょうか。私は、なるほど、と思うところが多くありましたよ。

ところで、今最も保護簿応益的な政策を実行しようとしているのはトランプ大統領だと思うのですが、中野さんは彼を中野さんが言うような「経済ナショナリスト」に分類するのでしょうか。

 

 

エマニュエル・トッド、オードリー・タン、モニカ・タフトほか『2030 来たるべき世界』朝日新書

2030 来たるべき世界 (朝日新書1049) [ エマニュエル・トッド ]

思えば2026年は、米国によるベネズエラ攻撃から始まりました。本書の著者陣の一人であるエマニュエル・トッドさんはこの攻撃も予想していたそうです(予言ではなく分析ですね)。本書は「私たちが2030年ごろまでにどのような選択を迫られているかを見つめ直そうという問題意識のもと、「朝日地球会議2025」に集まった国内外の知性を一冊に編み上げたものです」。

冒頭、エマニュエル・トッドさんからの巻頭メッセージとして、「日本は米国の戦争に巻き込まれてはいけない」というものが掲げられています。まあ、日本は米国か現在あちこちで関わっている戦争に直接的に巻き込まれることはないかもしれません。でもですねえ、2026年5月のトランプ大統領の中国訪問において周主席はかなり激しい言葉で「台湾に手を出すな」と警告したみたいです。ってことは、やる、ってことですよね。そのとき、日本に選択肢はあるのでしょうか。

トッドさんのトランプ大統領個人に対する評価は「彼は悪をなすのに喜びを抱くタイプの人間ではないかということです。嘘をつく快感、人を殺害させることにさえ快感を得ているのかもしれない」ですって。で、「トランプはアメリカ社会の真の姿を現しているのではないかということです」だそうです。だめだこりゃ。

「ついでに言っておくと、私は彼のヘアスタイルも嫌いです」ですって。

トッドさんは「日本のまっとうなナショナリズムの根本的な課題は米国に対して独立することであるはずだからだ」と指摘しています。でも、日本で右翼的、ナショナリストであるとされている人の口からこのような主張は聞いたことがありません。どちらが間違っているんでしょうかね。

トッドさんはまた「米国に仕え、その代理として中国と戦争をするよりも、中国とうまくやるべきだ」「米国はジョージアを放り出した。ウクライナも確実に放り出すだろう。もし米国が台湾をめぐって、日本を中国と対立させるように仕向けたとしても、最後は日本を放り出して、倒れるままにするだろう」とも指摘しています。

さあ、どうなりますか。

 

 

瀧澤 信『マネーの真相 世界を動かした「欧米300年のルール」の終焉』フォレスト出版

マネーの真相 世界を動かした「欧米300年のルール」の終焉 [ 瀧澤 信 ]

「私たちがいる世界は、あるお金のルールのもとに存在しています。それは「欧米の作り上げたマネールール」です。これは言い換えれば、ひと握り者だけが富を得る世界です。彼らのマネールールは格差社会を生み出し、真面目に働くことはわずかな収入しか得られないという仕組みを築き上げました」ということです。「欧米の作り上げたマネールール」ですので、このルールはひたすら「欧米」それもハイエンド、エリート、お金持ちの方々に有利なように作られています。日本は欧米ではありませんので、戦後の日本の成功なんてものは、欧米の発展のおこぼれでしかありませんでした。ですから日本が発展しすぎた、と欧米のエリートが考えるようになると終わってしまうわけです。

歴史を振り返ると、800年ごとに世界の重心は東西で入れ変わる、社会秩序システム(国家システム)の寿命は300年ほどである、などのパターンが見えてくるそうです。で、今はその端境期にあるのではないか、と瀧澤さんは分析しています。

ではどうすればよいのか、にご興味のある方は本書をお読みください。なかなか面白かったですよ。

 

 

2026年8月

中野京子『フェルメールとオランダ黄金時代 』文藝春秋

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フェルメールとオランダ黄金時代 (文春文庫) [ 中野 京子 ]
価格:924円(税込、送料無料) (2026/6/24時点)

本シリーズは文藝春秋の『オール読物』に連載された作品を書籍化したものです。「本書は、時代の必然のように登場した画家とその地の世相や事件を、できる限り多面的に捉えようとする試みです」ということで、絵画自体に対する批評とともにその作品が生み出された外的環境についても多くが語られています。

フェルメールも活躍したオランダ全盛時代、「他国から訪れた旅行者が、小さな商店や庶民の家にさえ絵が飾ってあるのを見て驚いている」なんて記録が残っているそうです。それまでは絵なんて教会や貴族の家の壁画くらいしかなかった、ってことでしょう。飾る場所が違えば、好まれる絵画の主題だって絵画のサイズ(値段も)もそれまでとは異なるのは当然の成り行きでしょう。多くの画家は得意分野(描く対象)を決めて大量生産に徹していたそうです。現代に通ずるものがありますね。

フェルメールは現在の日本でも有名ですが、「生前は地方の一画家扱い」、「19世紀後半、印象派が勃興する頃になってようやくフランスで再発見再評価され」るようになったそうです。でもねえ、日本にかの有名な「真珠の耳飾りの少女」(昔は青いターバンの少女って呼ばれてました。呼び名の変わったいきさつは本書ご参照。本書の表紙になっています)がやってきた1980年頃見に行きましたが、絵の前を前後しながら、よーく鑑賞出来ました。近くから見ると絵の具がポンポンポンと置いてあるだけに見える瞳が、ちょっと離れると美しい透き通った瞳にみえるんですよ。上手なもんだ、なんて思いながら長い時間鑑賞することができました。今じゃ無理だろうな。

ところで、本書に描かれているオランダの黄金時代(17世紀)には共和制であったオランダですが、現在のオランダには王室があります。どのような経緯で、などは各自お調べください。いつの時代、どこの国でも絶対的な君主、王様を求める気風ってのはなくならないもんなのでしょうか。今でもお星さまと縞々の旗の国でそんな動きがありますねえ。

 

 

中野京子『クリムトと黄昏のハプスブルグ』文藝春秋

中野京子と読み解く クリムトと黄昏のハプスブルク [ 中野 京子 ]

クリムトが生まれたのは19世紀末から20世紀にかけてのウィーン爛熟期。「今日の黄金時代がたちまち「昨日の世界」に変わるやしれぬ不安を抱え、馴染んできたこれまでの体制が崩壊する予兆に怯えながら、誰も彼もそれに、目をそむけてワルツに興じていた。興じつつエロスと死に満ちた絵画や小説や心理学に傾倒せずはおれなかった」時代です。ちょうどミュージカル『エリザベート』で舞台となったウィーンですね。日本画のような金箔をバックにした有名な「接吻」は、このような時代を背景に生まれたのです

美術の解説書はどうしても作品解説がメインになり、その時代背景、同時期にどのような社会的事件が起きたのかは充分に書かれてはいないことが多いのですが、本シリーズは主題となる作家ばかりでなく、周辺の芸術家たち、同時期に起きた事件などを採り上げ、様々な視点からその作家を見つめ直せるように構成されています。絵画の解説にとどまらず、歴史物語としても面白く読めました。

 

中野京子『中野京子と読み解くカラヴァッジョと惨劇のローマ』文藝春秋

【3980円以上送料無料】中野京子と読み解くカラヴァッジョと惨劇のローマ/中野京子/著

カラヴァッジョの名前には面白いエピソードがあります。このころのイタリア人の名前によくあるように、最後のカラヴァッジオというのは生まれた村(ミラノの近く)のことで、レオナルド・ダ・ヴィンチがヴィンチ村出身のレオナルドの意味であるように、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョはカラヴァッジョ出身のミケランジェロ・メリージの意味だそうです。ミケランジェロの名も「あの」ミケランジェロから取ったわけではなく、大天使ミカエルの日に生まれたからなのだそうです。ところが、21世紀になってミラノ市内の教会で洗礼届が発見され、ミラノ生まれであると確認されたのだそうです。ところが美術界としてはいまさら「ミラノ」と呼ぶわけにも、名前から「ミケランジェロ」と呼ぶわけにもいかず、カラヴァッジョのままにした、のだそうです。へえ。

本書の題名に「惨劇のローマ」なんて物騒な副題がついていますが、カラヴァッジョって殺人を犯して逃げ回る生活を送ったホンマモンの凶状持ちですからね。「バンド・カピターレ」っていう「誰でもいつでも容疑者を殺してもよい」って殺人許可まで布告されたんだそうです。してみると、カラヴァッジョっぽい題名ではありますね。

で、カラヴァッジョの人生で不思議なのは、彼は殺人を犯したのを契機にイタリア各地を転々と逃げ回っていたはず(ただし当時はイタリア統一前で、ローマを出ればほぼ外国、「バンド・カピターレ」の効力もあったんだかどうか)なんですが、それにしては晩年、といっても38歳で亡くなっていますが、に至るまで制作活動は続けています。速筆であったことはもちろんのこと、パトロンになろうという有力者には事欠かなかったんでしょうね。

本シリーズ各書は図版の多くがB6判見開きという大きな紙面に展開されており、迫力十分です。

 

 

マイケル・フィンケル 古屋美登里『美術泥棒』AKISHOBO

美術泥棒 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ4 14) [ マイケル・フィンケル ]

題名からもお分かりのように、本書は美術泥棒のお話です。美術品の泥棒というのがなかなか難しいのは、換金性が低いことがあります。手の届くところに何億、何十億という作品が掛かっているのですから、もっと悪い人たちの興味を引きそうなものですが、盗んだところでお金にするのが途轍もなく難しく、当然のことながら足がつきやすいことが分かっているので、実際に犯行に及ぶのに二の足を踏むわけです。ところが、本書に登場するのは「この泥棒は、決して焦らず、冷静で、手際よく、しかも自分の好きな作品だけを確実に狙う。そして盗んだ作品を金に換えることはせず、自室にその美術品を飾り、美術館のように見立てる」という私たちが思う泥棒とはいささか趣が違う泥棒です。

こんなこことができたのは実家が裕福で働く必要がなかったから……、というのであれば、私たちの想像の範囲内であるのですが、実際には裕福ではない実家の二階に居候をする貧乏生活だったそうです。こうなってくるとがぜんジャーナリストとしてのフィンケルさんの興味がわいてきた、ということのようです。詳しくは本書をお読みくださいね。なかなか興味深かったですよ。

 

 

2026年7月

Michael Kliebenstein 『Wheelbase II  The Tunisian Operation』Porter Press International

 Wheelbase II : The Tunisian Operation (Wheelbase)

以前ご紹介させていただいた『Wheelbase: Dark Dealing in the Classic Car World』の続編です。ご好評につき続編を、ということなのでしょう。

前作に引き続き、マイク・チャップマンとリック・サンダーランドの高級クラッシックカー・ディーラーの二人がチュニジアの砂漠に隠されているというクラッシックカーを見つけ出し回収してくるというミッションに挑戦します。さあ、成功するんでしょうか。ま、小説ですからね。そこから先はクリーベンスタインさんのお手並み拝見、というところでしょうか。

今回の目的地がチュニジアなんていうマニアックな土地だけに、登場する車もありがちなフェラーリとかだけではなく、ポルシェ917(クラッシュする原因にも蘊蓄が……)、ロールスロイス・ファンタムIII(007ゴールド・フィンガーに登場するロールスロイスばりの仕掛けが……)、アウトウニオン・タイプCグランプリカー(何でチュニジアにあるかにも蘊蓄が……)、それだけでなく、もう少し政治的なあれこれなどなどが前作より複雑さを増した物語に彩を添えます。

クリーベンスタインさんの小説家としての評価は皆様にゆだねるとして、彼自身はクラシックカーの専門家でもあるのだそうです。ポルシェ917のコックピットはフェラーリ512Sのそれより広くて快適である、なんて実際に知らなきゃ書けないですよね。両方を乗り比べる、なんてことはそれこそスティーブ・マックィーンの「栄光のル・マン」の撮影にでも参加しないと経験できないんじゃないですかね。そんなディテール、小ネタ、蘊蓄が本書をより一層面白くしてくれます。ま、それを面白がるのは一部オタクマニアだけかもしれませんが。

 

 

 

ブライアン・カーニハン 酒匂寛訳『教養としてのコンピューターサイエンス講義 第2版 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識 【電子書籍】』日経BP

教養としてのコンピューターサイエンス講義 第2版 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識 【電子書籍】[ ブライアン・カーニハン ]

世はデジタル社会。「コンピューティング」に関する知識は必須の知識になったようです。でもって本書はプリンストン大学における”Computers in Our World”という講座における講義を基に構成されたもののようです。

私たちは日常的にスマホなどを使っていますが、このちっこいスマホのチップの演算能力は優にアポロロケットを月に送り込める、なんて聞きました。ではありますが、スマホなんぞはあまりにも日常に溶け込んでいますので、私たちがスマホの奥に存在するロジックに思いをはせるなんてことはほとんどないのではないでしょうか。

でもコンピューターに頼り切る前に、コンピューターについてもう少し理解しておいた方が良くないですか、ということでこのような講座が企画されたようです。

この講座の目的は「技術について知的に懐疑的であってほしい」ということのようです。疑うにもその基礎となる正確な知識、理解が要求されますからね。“知的な市民”であるためには、ある程度の教育が必要とされるようです。

 

 

藤井 啓祐『教養としての量子コンピュータ』ダイヤモンド社

教養としての量子コンピュータ [ 藤井啓祐 ]

本書は量子論という私たちが知っているようでよくわからない分野を主題としています。「教科書には、「生成」演算子や「消滅」演算子なる聞きなれない言葉が現れる。「真空」に生成演算子を呪文のように作用させるとレベルが上がる。帽子をかぶって、マントを羽織り、剣まで持っている……」「これは冗談ではない。本当に量子力学の式がそのように見えるのである」んだそうです。まるでコンピューターゲームか『マトリックス 特別版』の世界そのままですね。

お分かりになりましたか?ま、あたしにゃ無理だ。

というわけで、本書は大阪大学大学院基礎工学科教授の藤井さんが、私のようなド素人にも分かりやすく量子論に関する理論や数式を端折って、量子コンピュータの今を解説してくれています。

でも、藤井さんは本書の中で量子力学についての見事なたとえ話を披露しています。古典力学の世界を二人の神々が打つオセロを傍で眺めている世界、量子力学の世界は自分もプレイヤーとして神様を相手にオセロを打っている世界であるとしています。なるほどこれであると、観察することによって対象に影響を及ぼしてしまう量子力学の世界のイメージを描きやすいですよね。

 

藤井さんが初めて量子コンピュータに興味を持ったころは「まるでファンが二、三人しかいない地下アイドルを応援しているような気分で」「今では、武道館でライブをするようなポピュラーな存在になってきた」そうです。でも、そんな藤井さんから見ても、量子コンピュータが世界そして人類にどのような影響をもたらすのかを正確に予測はできないそうです。確かなのは「何かすごいことは起きそうだ」という予感だけ、なのだそうです。

 

 

原田マハ『すべてが円くなるように』幻冬舎

すべてが円くなるように [ 原田 マハ ]

祖母と孫、母と娘、女友達を真珠がつなぐ短編集。なんでこんなコンセプトが生まれたのかというと、本書に収められた7編の短編はご存知真珠のミキモトの公式サイトに発表されたものであるから、なのだそうです。で、本書の表紙にもご存知フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」があしらわれています(本編にも登場します)。これで真珠の印象が悪くなるようお話が書かれていたらびっくりですよね。ということでいずれもハートフルな掌編になっています。

 

 

2026年6月

中野 京子『名画で読む「音楽の秘密」』祥伝社

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

名画で読む「音楽の秘密」 (単行本) [ 中野 京子 ]
価格:2,090円(税込、送料無料) (2026/4/24時点)

本書の冒頭に面白いことが書かれてました。名画にインスパイアされた名曲は「亡き王女のためのパヴァーヌ」(ラヴェル)や「展覧会の絵」(ムソルグスキー)などなど数多くありますが、名曲を絵画化した作品というのはあまりないそうです。本書で挙げているのはクリムトの「ベートーヴェン・フリース」ですが、知ってます?

ということで、本書はその珍しい音楽をモチーフにした絵画を集めた一冊です。どんな作品が集められているのでしょうか。

本書巻末には「本書に登場するクラシック曲」もまとめられていますので、本書を読みながら聴く、なんてこともできますよ。

 

 

井上 響『ムンクは何を叫んでいるのか? 美術館が2割面白くなる 解説/井上響』サンマーク出版

【送料無料】ムンクは何を叫んでいるのか? 美術館が2割面白くなる解説/井上響

著者の井上さんは東大美術史卒の美術史作家、美術史ソムリエだそうです。美術史作家は分かりますが、美術史ソムリエって何者なんでしょう。でも、面白そうだから読んでみましょう。

本書の表紙に「本当の教養は額縁の外にある」まんて書いてそんります。まあ、普通の美術史みたいなことが書いてあるんじゃないでしょうね。でも、損な絵には描かれていない物語を知ったとき、「それらを知った時、あなたはもう以前と同じようにその絵を見られなくなるだろう」ですって。でも、そんなこと言われると、何なのか知りたくなりますよね。ということで読んでみましょう。

本書にはムンクの「叫び」以下48の作品についてその作品に関する問いかけとそれに関する井上さん流の(「額縁の外」の)解説によって構成されています。井上さんの解説はに紙背に徹するほど作品を見つめても分からないはずのことが書かれています。なるほどねえ。

図版の質もよく、楽しめる一冊でした。

 

 

車 浮代『蔦屋重三郎の慧眼 エッセンシャル版』ディスカバー・トゥエンティワン

蔦屋重三郎の慧眼 エッセンシャル版

車さんは時代小説家/江戸料理文化研究家」だそうです。ほお。

蔦谷重三郎がなぜ浮世絵界の名プロデューサーだなんて言われているかというと、江戸浮世絵師四天王の喜多川歌麿、葛飾北斎、東洲斎写楽、歌川広重の4人なのですが、蔦重は広重を除く3人のプロデュースに関わっているのだそうです(ちなみに広重は蔦重が亡くなった年に生まれたそうですから、プロデュースのしようがないそうです)。

私たちの知る多色刷りの浮世絵というのは分業でシステマチックに作られているものだったようです。浮世絵作家といわれて私たちが思いつく絵師は「「下絵」と呼ばれる墨一色の線画だけを描く。あとは朱墨で色指定するだけ」なのだそうです。それだけでなく「錦絵のテーマを決めるのも、浮世絵師に依頼するのも、彫師や摺師を選定するのも、出来上がった錦絵を販売するのも版元の仕事」だったのだそうです。蔦重はこの版元だった訳ですから、錦絵の総合プロデューサーであったというのもうなづけるものがあります。今だと、映画の監督がプロデューサーも兼ねちゃってるって感じでしょうか。

本書、蔦重に関する一つのテーマについて全てコンパクトに1ページにまとまられていますので、大変読みやすくなっています。いささか図録が少ないかな、とも思いますが、今時、見たければネットでググッちゃえますからね、本を作る際に意図的に図録を減らした、なんてこともあるのかもしれませんね。

ところで、この蔦重がモデルになったNHK大河ドラマ「べらぼう」をみていて“へえ”、と思ったことがありました。蔦重は吉原で貸本屋を開いて商売を始めましたがその貸し先はというと、吉原の遊女。ってことは吉原の遊女ってのは字が読めたということ。もちろんお堅い本ではなく、今でいうマンガみたいな挿絵の多い本ではあったようですが、だいぶ識字率は高かったように思います。本書には「江戸庶民の識字率は、およそ70パーセントくらい。同時期のロンドンは20パーセントくらい」という記述があります。結構豊かな文学的バックグラウンドがあったんですね。

 

 

大下 英治『高市早苗 安倍晋三の後継者となった初の女性首相の戦い]宝島SUGOI文庫

高市早苗 安倍晋三の後継者となった初の女性首相の戦い (宝島SUGOI文庫) [ 大下 英治 ]

著者の大下さんは初当選以来30余年にわたり高市早苗総理を取材してきたジャーナリストです。本書出版は2026年2月13日。ですから2025年10月4日の高市自民党総裁選出を受けて出版されたのでしょうが、当然2026年1月23日解散、2月8日投票の第51回総選挙については残念ながら間に合わなかったことになります。公明党の連立離脱という大激震を乗り越え総選挙では自民党が大勝しました。少なくとも目先、短期間で高市総理がその地位を追われるようなことはないでしょうから、本書は今後の政策運営を占う上で大いに参考になるのではないでしょうか。ということで読んでみました。

高市総理の経歴で気になったのは末ディタ政経塾での経験です。松下幸之助が政経塾を作った目的は「政治というのは国家経営である。日本の政治に経営学的視点を導入しないと、日本は良くならない」というものだったそうです。経営学的視点、という割には「松下電器産業の製品を二ヶ月で200万円分、個別販売で売ってくる」なんていう、一歩間違えると“地獄の研修”みたいなものもあったようです。自民党総裁就任時の「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」という発言の原点でしょうか。

高市総理は松下政経塾の課題も持ち前のバイタリティーで乗り越えたようです。がむしゃらに。

「「森のオソマツ」と言われた首相がいた。あまりにひどくて早々に辞めた森喜朗である」

 「その森の“勝手補佐官”を名乗って高市早苗は世耕弘成、下村博文、山本一太と共に森をサポートした。つまり、高市は「森のオソマツ」の女性版なのである。ちっとも新しくないし、両親が教育勅語が好きで高市もそれを教えられていたというから、カビが生えているほどその考えは古くさい」

高市総理は米国上院議員事務所でインターンをされていました。その際も持ち前のバイタリティーでがむしゃらに乗り越えたようです。間違ってもスマートな解法を見つけたのではないようです。

松下幸之助のモットーは「成功の要諦は、成功するまで続けることである」だそうです。経営学的視点ねえ……。でも、こんなことを国政でやられちゃたまらんですよねえ。

現在の日本を取り巻く問題は、気合と根性でがむしゃらに取り組めば何とかなるようには思えません。思い過ごしであれば良いのですが。心配です。

 

 

 

2026年5月

二浦 篤、森村 康昌『キテレツ絵画の逆襲 「日本洋画」再発見』新潮社

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キテレツ絵画の逆襲 「日本洋画」再発見 [ 三浦 篤 ]
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三浦さんは大原美術館長、東京大学名誉教授の美術史の大家、森村さんは包帯をしたゴッホの自画像に扮した写真に始まるセルフポートレート写真のシリーズで有名な現代美術家です。でも、年齢は森村さんの方が上みたいです。研究者と製作者と立場の異なるお二人が日本の近代洋画について語り合っています。で、キテレツ絵画ってなんだ、ということになるのですが、「日本の洋画」という表現自体がキテレツではあるまいか、というところから始まります。

で、何で明治・大正・昭和初期の「日本近代洋画」なんぞに焦点を当てるのか、というと、三浦さんも森村さんも「ここのところ、このジャンルへの注目度が一時に比べて弱まっているという危機感」を覚えているから、なのだそうです。芸術作品というものは文字度通り「見られてナンボ」というところがあります。石の彫刻とかであれば、倉庫にしまわれても埃さえ払えばまた飾れるかもしれませんが、絵画作品って意外と脆弱で、よほどきちんと保管しない限り汚損してしまい、文字通り二度と日の目を見ない、なんてことが起こりえます。ま、そんなことを危惧したんでしょう。

で、そのような意図を豊富な図版とともに語り明かしています。やはり私たちシロウトには芸術作品も解説があるといろいろと便利ですねえ。面白かった。

 

 

北村 紗衣『学校では教えてくれないシェイクスピア』朝日出版社

学校では教えてくれないシェイクスピア [ 北村紗衣 ]

北村さんは武蔵大学人文学部英米文化学科教授で専門はシェイクスピア研究。で、本書はシェイクスピアを通して「観光とか流通とかジェンダーとか人種とか批判理論とか、いったいシェイクスピアと何の関係が……」というような話題まで、「シェイクスピアについて学ぶことで芋づる式に面白いことが出てきて」という講義(男子高校生(いわゆる超進学校の)を対象とした夏季集中講座みたいです)を基にした本です。で、本書をきっかけに読者の方もシェイクスピアを突破口としてそこからつながって出てくるものを探求してみて下さい、という趣旨のようです。ふーん。ま、読んでみることにしましょう。

本書の中に、「調べものにウィキペディアを使うのは是か非か」というコラムがありました。で、北村さんなりにウィキペディアをどう使うか(簡単な調べものではなく、正式な論文を書こうとしている場合など)をまとめてありましたが、これってかなり有用なコラムではないですかね。北村さんは当初英文学が専門ではなく日本で別分野の修士号を取得、その後博士号を取得したキングス・カレッジ・ロンドンで初めて英文学科に入ったのだそうです。多分、英文で学術論文を書く際の引用基準などいやというほど叩き込まれたんじゃないですかね。こういうの、皆さんの役にも立つと思いますよ。

あと、最後の方に最後の方に批評を書く、という課題を生徒に出して講評しているのですが、大変面白く読みました。批評を書く場合、たんに好きだ、嫌いだ、と書いたのではそれで終わってしまいますので、なぜ好きなのか嫌いなのかを掘り下げなくてはなりません。その際の考え方は、単に批評を書くのみならず、様々な場面で思考を深化させて言語化する上で役立つ方法となるに違いありません。

シェイクスピアを通して様々な考え方に触れることのできる本書、なかなか読み応えがありましたよ。

 

 

『地球の歩き方 ムーJAPAN ~神秘の国の歩き方~ [ 地球の歩き方編集室 ]』学研

地球の歩き方 ムーJAPAN ~神秘の国の歩き方~ [ 地球の歩き方編集室 ]

ご存知『地球の歩き方』シリーズの一冊ではありますが、取り上げているのは日本にも存在するアナザーワールドのお話。旅行専門誌が行けないところを採り上げてもいいのか、とも思いますが、まあ普通の観光地なんて行きつくしちゃったよ、なんて方もいらっしゃるでしょうから、こんな本の需要もあるのでしょう。で、編集に協力しているのがムー編集部。ご存知オカルト専門誌ですね。この手の本がお好きな方には面白さが分かっていただけるであろう一冊でした。信じる信じないはあなた次第……。いやあ、結構ディープだったなあ。あと、情報量が多すぎてるので、ガイドブックみたいに興味のある所からつまみ食いしていくのが良いかもしれません。

 

 

『地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方ー超古代文明 オーパーツ 聖地 UFO UMA [ 地球の歩き方編集室 ]』学研

地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方ー超古代文明 オーパーツ 聖地 UFO UMA [ 地球の歩き方編集室 ]

で、こっちは世界版。内容は……お読みください。面白いのは、取り上げられている場所にどうやったら行けるのかが具体的に書かれていること。本書で取り上げられているような場所は基本的にはあまり人が行かないところですので、素人には行き方がよくわからなかったりします。そこは『地球の歩き方』とコラボしているだけに抜かりはありません。図版も豊富でパラパラめくっているだけでもなかなか面白かったですよ。

 

 

2026年4月

保坂 正康『「裏切りの近現代史」で読み解く歴史が暗転するとき』講談社

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「明治維新から終戦まで77年。そして終戦から77年後の2022年、再び暴力が支配し始めた世界。「瀬戸際」の今こそ、過去の歴史に学ばなくてはならない」って帯に書いてあります。初版発行は2022年。あらら、早く読まないと、ってことで読んでみました。

保坂さんはプーチンみよるウクライナ侵攻を1931年の満州事変、1939年のドイツによるポーランド進駐などになぞらえています。してみると、近々何か起こるか、もしれないですね。でもなあ、最近じゃどっかのジャイアンが外国の大統領を無理やり連れてきたりしてるからなあ。何しろ保坂さんによれば人類の歴史なんて、裏切りの歴史らしいですからね、これからどうなるか、非常に読みにくいですね。

保坂さんは歴史のアナロジー(過去の事例・人物との類似)を通して現代の政治情勢を読み解いて行きます。過去の事例がそのまま当てはまるかどうかは絶対ではありませんが、面白い視点であることは確かです。これからの世界情勢を読み解くうえで新しい視点を付け加えてくれるのではないでしょうか。

昭和一桁のころ、「バカは死ななきゃ治らない」というセリフが大はやりしたそうです。何やら昨今の世相と似ているような……。だとしたら、バカは死んでも治らない、なんでしょうか。最近の選挙結果は首相に白紙委任状を渡してしまいました。TOKIOも『宙船(そらふね)/do!do!do!』で歌っているでは去りませんか、「おまえのオールを任せるな」って。

こんな一文もありました。「私はこれまで数多くの軍人に会ってきて、この人は人間として失格だなと思った人物が数人いる。いずれも陸大出身の高級軍人である」だそうです。今では陸大はなくなりましたし、軍隊も一応ないことになっています。それにしては「人間として失格」な人物がそこら中にいるような……。

日本には曲がりなりにも民主主義が機能しているはずです。機能させる最後のカギは私たち国民が握っているはずです。きちんと機能させるには、私たち国民が自分のアタマで考えること、のはずです。

 

 

レガシィマネジメントグループ『100億円相続事典  1億円との徹底比較で見えてくる違い』日経BP

100億円相続事典 1億円との徹底比較で見えてくる違い [ レガシィマネジメントグループ ]

本書は永年富裕層の相続サポートを行ってきた相続のプロ達「プレミアム税理士」が資産100億を超える超富裕層と資産1億円超の富裕層の相続を比較、そこから見えてくる共通点や相違点を解説する(相違点の最初の項目は「愛人」……。)、という事典形式の相続解説書です。

まあ、私がこれから100億円を相続する立場になる可能性はゼロ、これから100億円を相続させる立場になる可能性はゼロではないでしょうが、限りなくゼロに近いと思います。でもまあ私も一応ファイナンシャル・プランナーですので、後学のために目を通してみることにいたしましょう。

 

 

斎藤ジン 『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』文春新書

世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ (文春新書) [ 齋藤 ジン ]

著者の斎藤さんは、「ヘッジファンドをはじめとするプロの資産運用者に助言するコンサルタント」なのだそうです。で、その分析の結論は?「ひとことで言えば、日本は今、数十年に一度の大きなチャンスを迎えている」のだそうです。細かいことは本書をお読みくださいね。

斎藤さんは現在世界の政治経済において激動・激変が起きており、それらの引き金になっているのが「新自由主義への反乱」であるとしています。

一番面白かったのが、「当時世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターの創業者レイ・ダリオが私のレポートに対して不快感を表明しているという話も聞こえてきました」なんて書かれていることです。斎藤さんは中国の先行きには悲観的。それに対してダリオさんは中国びいき、なのかかどうか、ご自分の実子を中国に留学させたりしています(『Principles for Dealing with the Changing World Order: Why Nations Succeed and Fail』にも書いていますね)。斎藤さんとダリオさん、どちらに軍配が上がるのでしょうか。まあ、ダリオさんも「中国は今後百年間続く嵐に突入しつつある」と、中国に対する見方を若干転換させたみたいですね。

ところで、斎藤さんは面白い統計を紹介しています。「大統領を2期務めたオバマが強制送還した不法移民の1年あたりの平均値は、トランプを明確に上回っていますし、バイデンの平均値もトランプと同程度です」なんだそうです。トランプ大統領のレトリックを表面的に捉えるているようではダメなようですね。そう言えばトランプ大統領は最近「高市首相を全面的に支持」しているって言ってますね。真意は日本なんて植民地だ、ごちゃごちゃ文句言うな、ってことですかね。

 

 

森永 卓郎『保身の経済学』三五郎シンシャ

保身の経済学 (森永卓郎シリーズ) [ 森永 卓郎 ]

森永さんは本書冒頭で「本質を追及するのではなく、目先の問題が発生しないようにトラブルの回避に専念する。それこそが“保身”だ」と断じています。このような「保身」が日本社会にはびこり、日本が持っていなくてはならないダイナミズムを損なっています。なんだかなあ……。

森永さんはご自身の最期を予期し、「もう本当のことをすべてぶちまけて死のう」と決意されたのだそうです。で、当たるを幸いとばかりに切りまくっています。でもその一つ一つの指摘には思い当たることがあるなあ。

森永さんの末後の言葉でしょうか。しかと受け止めたいものです。

 

 

2026年3月 

高橋 陽介『シン・関ヶ原』講談社現代新書

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シン・関ヶ原 (講談社現代新書) [ 高橋 陽介 ]
価格:1,100円(税込、送料無料) (2026/1/24時点)

私たちが知る歴史上の通説が後世の講談などの物語、俗説、与太話に基づいているのではないか、という事例は現代の歴史学においてはもはや揺るぎのない事実である、といえるようです。

特に戦国時代の合戦に関しては、その後の江戸幕府・政権を賛美する関係上その敵方についてはなるべく愚かで、カッコ悪く描かれたことでしょう。その過程で様々な脚色も加えらえれたのでしょう。当時の日本では歴史学的な資料分析なんて手法は存在しないでしょうから、学問的分析とはかけ離れた方向へ向かってしまったようです。まあ、現代でも司馬遼太郎さんの描くいわゆる司馬史観が批判されていますので、歴史を取り巻く状況というのは大して進歩していないようではありますね。

で、本書で取り上げられているのは「関ヶ原の戦い」。天下分け目の戦いというイメージですが、一次資料を改めて分析すると、「関ヶ原で「天下分け目の戦い」というものが本当にあったかどうかさえ、疑われはじめているのだ」という状況なのだそうです。え、どこが、と思われた方は本書をお読みくださいね。

ということで本書は新書一冊を使って高橋さんのシン・関ヶ原の解釈を開陳しています。従って、本書はNHKの大河ドラマを見て事細かにケチを付けちゃうような歴史オタクとかには受けるのかもしれませんが、私のようなシロウトには・・・・。心してお読みください。

 

 

ダン・ブラウン 越前敏弥訳『シークレット・オブ・シークレッツ 上 下』角川書店

ご存知『ダ・ヴィンチ・コード 上中下巻セット』のダン・ブラウンさんの新作です。本書の帯にでかでかと書かれているように、人類の「意識」と「脳」の秘密に迫る、という本書ですが、作者がダン・ブラウンさんですので大丈夫。ダン・ブラウン作品が支持される最大の要因というのは、ダン・ブラウンさんが手練れのストーリー・テラーである、ということに尽きるのではないでしょうか。本書も例によってハードカバー2冊、併せて800ぺージになりますが、途中で飽きてしまうとか、つまらなくて読み進めるのが苦痛、なんてことは全くなく読了してしまいました。異例の短期間での翻訳作業だったそうですが、日本語も充分こなれています。

 

 

恩田 陸『spring another season』筑摩書房

spring another season (単行本) [ 恩田 陸 ]


以前ご紹介した恩田陸さんのバレエ小説『
spring』のスピンオフ小説集です。内容は『spring』の後日談といったところでしょうか。多分恩田さんがspringで創作した登場人物たちが勝手にしゃべり始めちゃったんじゃないですか。内容は是非ご自身で確かめてくださいね。恩田さんは折り紙付きの上手い作家ですので、裏切られることはありませんよ。

中に「hal spring gala program」というバレエのガラコンサートのプログラム風の冊子が挟まっていますが、その内容は演じられるバレエを登場人物である萬(よろず)春(はる)が解説したことになっています。なんとも凝った演出ですねえ。それ以上はぜひご一読を。面白かったですよ。

 

 

湊かなえ『暁星』双葉社

暁星 [ 湊かなえ ]

「著者自ら「29作目にして、私はこの作品が一番好きだと断言できます」と語る唯一無二の物語『暁星』」だそうです。作者が好きって言ってるんですから私ごときチンピラ読者がどうのこうの言っても仕方ないですねえ。

本書の物語は、現役の文部科学大臣で文壇の大御所作家でもある政治家がとある式典の最中に刺殺されるという場面から始まります。犯人はすぐ取り押さえられますが、逮捕後、週刊誌に手記を発表氏は始めました。そこには、くだんの政治家の関わっていた新興宗教に対する恨みが綴られていました。さらに事件を目撃していた作家は事件を小説として描き始めました。フィクションが複雑に入り組んだ湊かなえワールド全開。とにかく、読んで面白い一冊でした。

 

 

 

2026年2月 

橘玲『HACK(ハック)』幻冬舎

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HACK(ハック) [ 橘 玲 ]
価格:2,200円(税込、送料無料) (2025/12/24時点)

橘玲さんの11年ぶりの書下ろし長編だそうです。題材はハッキング技術を駆使したマネーロンダリング手法の数々、それが暗号資産だなんだかんだが蠢く国際的な陰謀へと……。

ま、小説ですので気軽にお楽しみください。「世界はHACKされるのを待っているバグだらけのシステムだ」ですって。本書はフィクションですからね。信じるのは構いませんが、自己責任で……、って書いてあります。小説家として手練れの橘さんの書く波乱万丈のストーリーは、暗号資産だなんだの解説を間に挟み読ませます。面白かったですよ。

 

 

ミチオ・カク 斎藤隆夫訳『神の方程式 「万物の理論」を求めて』NHK出版

神の方程式 「万物の理論」を求めて [ ミチオ・カク ]

アインシュタイン以来、宇宙のあらゆる事象を記述する究極理論、たったひとつの数式を、科学者たちは探求しつづけてきました。アインシュタインもあと一歩、ところまで行ったのですが、そのあと一歩が途轍もなく難しく、今のところ見つかりそうだという確たる見通しが立っているわけでもないようです。

で、その究極理論が完成、厳密な検証を経て世界中の科学者からあまねく受け入れられたとしたら、私たちの暮らしや生活、宇宙観にどのような影響があるのでしょうか。「日常生活への直接的な影響については、無きに等しいだろう」なんだそうです。「万物の理論の規模をもつエネルギーは、宇宙の創成やブラックホールの謎とは関係するが、あなたや私の暮らしとは無関係なのであろ」ですって。あ、そう。まあ、ビッグバンとは何か、なんてことが分かったとしても、今日の晩御飯何にしようかな、なんてことが分かるわけではないでしょうから、そうなのかもしれないですよね。

本書の位置づけは物理学に興味のある初心者向けのいわゆるポピュラー・サイエンス読本といったところなのだと思います。ですから、高次元のひも理論を解説する場合も数式が出てくるわけではありません。とはいえその道の第一人者ですから、説明を端折ったりするわけにはいきませんので、なんだかんだ結構難しかったです、私には。そこらへんは心してお読みください。

 

 

清武 英利『どんがら トヨタエンジニアの反骨』KODANSHA

どんがら トヨタエンジニアの反骨 [ 清武 英利 ]

トヨタ自動車は世界でもトップクラスの生産台数を誇る最大手自動車会社です。そんな大手自動車会社の生産する車というのは、まあ大体において売れる車、つまり一般受けする車、というのが通り相場です。トヨタの車もそんな車が多い、と思います。運転していると、言っちゃ悪いけど掃除機を動かしてるみたい。掃除機のあそこがスバラシイ、ここがカッコ良い、なんて思わず、使えりゃ何でもいいや、って感じで使ってるでしょう、あんな感じ。まあ、いわゆるマニア、オタクには受けない車作りをしています。でも、だからこそ売れる。とはいえ自動車会社のエンジニアなんて人は、そもそもクルマが好きで、クルマが作りたくて入社してくるわけですから、作りたいクルマと売れる車のギャップに悩むわけです。本社の主人公多田哲哉さんもそんなひとり。本書はそんな多田さんが、現在トヨタの作る数少ないスポーツカーであるスープラや86を開発しているときの苦難のルポです。

正直なところ、私はトヨタの車が余り好きではなく、もちろん今まで買ったこともありませんでした。でも、本書を読んでそんな車も実はエンジニアたちが知恵を絞って作っていることが分かりました。私の好みに合わないのは、そういう方向性で作っているからにすぎないようです。分かっててそういう風に作っているんだよ、ということなのでしょう。なるほどね。

 

ジャッキー・ヒギンズ 夏目大『人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー』文藝春秋

人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー [ ジャッキー・ヒギンズ ]

私たちは人間の感覚に関しては、「五感」という言葉に表されている通り、5種類であると思い込んでいます。が、最近の研究では「神経学者にきくと、感覚は22種類くらいある、という答えが返ってくる」とか「感覚は5つではなく、私たちの研究によっておそらく33種類くらいには増えそうだ」なんて状態らしいです。第六感どころじゃありませんね。どうなってるんでしょ。

この感覚というもの、実は明確に定義されているものだそうです。ですから私たちも喪失「感」とか罪悪「感」なんて言葉を日常的に使っているわけです。これらの「感」と五感の「感」とは根本的に異なったものなのでしょうか?

 

 

2026年1月

友清 哲『ルポ“霊能者″に会いにいく 「本物」は存在するのか 』PHP

ルポ“霊能者”に会いにいく 「本物」は存在するのか/友清哲【3000円以上送料無料】

「著者が自腹で全国の“霊能者”を訪ね、徹底検証した傑作ルポルタージュ」だそうです。いやあ、のっけから怪しさ満載ですね。本物の“霊能者”は見つかったのでしょうか。

本書は霊能者版ミシュランガイドではありません。霊能者の名前とか所在は全てぼかしてあります。ですから霊能者探しをしている方には向きませんのでご注意を。でも読み物としては結構面白かったですよ。

 

 

牛島 信『上場廃止』幻冬舎文庫

上場廃止 (幻冬舎文庫) [ 牛島信 ]

「あのカルロス・ゴーン事件を予言した衝撃の企業法律小説」だそうです。ただ、著者の牛島さんは東京、広島での地検検事を経て弁護士になられ、現在は「M&A、コーポレートガバナンス、不動産の証券化、情報管理などで定評のある牛島総合法律事務所代表」という方だそうです。法律のプロが書く小説ってのはどんなもんでしょうか。

本書は小説ですので話の本筋はフィクションです。が、話の進行上出てくるエピソードの法律的な意味づけを本職の法律家である牛島さんが解説してくれています。こんなこといちいち弁護士に聞いたらいくら掛かるんだか……。ここら辺を心して読めば、すぐに本代の元は取れるんじゃないですか。でも、普通の小説として読んでも結構面白かったですよ。

 

 

ヌリエル・ルービニ 村井章子訳『MEGATHREATS(メガスレット)世界経済を破滅させる10の巨大な脅威』日本経済新聞出版

MEGATHREATS(メガスレット)世界経済を破滅させる10の巨大な脅威 [ ヌリエル・ルービニ ]

著者のルービニさんによれば、現代の世界は様々な「広い範囲で大きな損害と苦痛を引き起こし、しかも容易には解決できないような深刻な問題」があるのだそうです。その中から10のリスクについて分析しています。長く続いた平和と繁栄の時代はもう長くは続きませんよ、というわけです。本書が出版されたのは2022年のことです。結構長い時間が経過していますが、特段世界中が緊張するような事件は起きていないような……。本書は20年程度のスパンを見据えた分析のようですが。ま、読んでみましょう。

私も拙論の為替見通し(https://www.fpohkuni.com/Magazine%20Articles.htm)でも指摘してきたとおり、本書でもコロナ渦期の世界的な金融緩和が回収されておらず、バブルとも言うべき状況になっており、バブル崩壊は時間の問題であり、その崩壊の影響は相当深いものが予想されています。私も同じような見通しを数年来持っているのですが、未だに現実化していません。私もルービニさんのような「破滅博士」なんでしょうか。

本書を読んで、寺田寅彦が言ったといわれる「天災は忘れた頃にやって来る」を思い出しました。現代の科学では天災を予測することはできないし、まして予防することもできない。しかし、天災に対する備えをすることによってその被害を少なくすることはできる、なんて100年以上も前に言ってます。私たちも本書を読んでどんな問題が起きそうなのか、そしてどんな備えが可能なのかを考えておくのは決して無駄ではないでしょう。

「第二次世界大戦が終わってからは、先進国がデフレに見舞われたことはほとんどない」「長期にわたるデフレを経験したのは日本だけだ。日本は1990年から経済が低迷し、「失われた20年」さらには「失われた30年」と呼ばれた」ですって。日本にだけはMEGATHREATSは起きちゃっていたみたいですね。

著者が最も懸念しているのはスタグフレーション。「責任ある積極財政」を掲げる政権が日本でも発足いたしました。さてどうなりますか。

「過去から学べない者は過ちを繰り返す」皆様もご一読を。

 

 

宮田 珠巳『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』大福書林

アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険 [ 宮田珠己 ]

「マルコ・ポーロが『東方見聞録』を発表したのと同じ頃、行ってもいない東方世界の旅行記を著した稀代のペテン師ジョン・マンデヴィル。世に出るのを厭い、苔と羊歯の庭いじりを唯一の喜びとしていた息子アーサーは、ある日教皇から呼び出され、亡き父の書に記されたプレスター・ジョンの王国を探すよう命じられる」なんて紹介文が本書の帯に書かれていますが、はっきり言って何言ってるのかわからない。本書は全てフィクションな訳ですが、そのフィクションが何重にも重なって物語を形成していきます。ここからは宮田珠巳ワールド全開。

 

 

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